もし、政治的、社会経済的状況が秩序や安定をもたらすことができなければ、宗派、民族、部族としての意識が優先することになる。したがって、長期的時間軸で捉えることも、現在の情勢を理解することと同様に重要である。
約1400年前、預言者ムハンマドの死後、その後継者争いにより分裂したのがスンニ派とシーア派である。アッバース朝とファーティマ朝の対立、十字軍による遠征、モンゴルの侵攻、オスマン朝による征服、そして西欧による帝国主義、いずれもが今日の紛争の要因となっている。
6月末、「イスラム国」がカリフを指導者とする国家の樹立を宣言した。大部分のスンニ派の人々は、アブ・バクル・アルバグダディが勝手にカリフを名乗ったことに憤慨し、彼が「ローマを征服する」と言っているのを愚かしいと考えている。にもかかわらず、バグダディがアッバース朝の黒い旗を用い、カリフが力を持ち、スンニ派の人々の尊敬を集めていた時代のことを語ることは、効果的である。それは、「イスラム国」に武器の後ろ盾があり、「イスラム国」が占拠しようとしている国が社会的に不安定な状態にあるからである。
地域外の国々は、中東の長期的歴史を無視してはならないし、紛争が本当に宗教的解釈の正統性に関するものであるとの誤った主張を信じるべきでもない。また、スンニ派、シーア派、その他いずれかの少数民族や宗教的少数派が味方してくれているとの思い込みの下に方針を決めることがあってはならない。中東地域の各勢力は、常に自分たちの目的のために行動し、そのためであれば外国勢力を巻き込むことを厭わないからである、と論じています。
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中東情勢を見る視点として示唆に富む、深い洞察を示す論評です。現在の中東における各種の紛争、内戦等における当事者の目的、関心は各自(部族、宗派、政権)の生存を確保するという最も短期的、直接的なことにありますが、現在の中東の政治図を形作った過去100年程度の現代史や、より長い歴史的要因が中東の人々の心や情念を捉え、政治的行動に影響を与えていることを理解するのは極めて重要です。特に、欧米、旧ソ連時代を含むロシアという域外の主要勢力との関係性は、このような中期的或いはより長い歴史的時間軸に基づく要因によって性格付けされる傾向にあります。