エネルギー問題を考える

2014年10月22日

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朝野賢司 (あさの・けんじ)

一橋大学特任講師

1974年福岡県生まれ。京都大学大学院にて地球環境学博士号を取得。産業技術総合研究所バイオマス研究センター特別研究員を経て、2007年より電力中央研究所社会経済研究所主任研究員。2015年4月より現職(兼任)。17年より社会経済研究所上席研究員と現職を兼任。著書に『再生可能エネルギー政策論 買収制度の落とし穴』(エネルギーフォーラム社刊)など。

 しかし、調達委の査定能力に大いに疑問がある。第1の問題として、業界団体のほぼ「言い値」で買取価格を算定した上に、基本的な計算諸元も不明で再現が不可能なことが挙げられる。例えば2012年度は、16種類の買取価格を設定した中で、事業者や業界団体が希望した買取価格がそのまま採用されたのが10種類、業界側希望価格から上乗せした価格は2種類に対して、縮小側見直しは3種類に過ぎない。

 加えて、調達委は業界提出の建設単価(万円/kW)を6種類について切り下げたが、最終決定した買取価格は業界希望のままだったことは特に不可解である(拙稿「日本における再生可能エネルギー普及制度による追加費用及び買取総額の推計」、p.32参照)。なぜそうなったのか、稼働率等の計算諸元が示されておらず、再現することは困難である。また、稼働率等の価格算定に必要不可欠な算定根拠が示されていない再エネも多く、買取価格がどのような試算によって算出されたのか不透明である。

 第2の問題として、再エネ事業者はコストデータの提出の際に、何らエビデンスを提出する必要が無いことだ。とりわけ、木質バイオマスと非住宅用太陽光発電の買取価格の設定が不可解だが(前者については拙稿「未利用材バイオマス発電 補助金4重取り」をご参照頂きたい)、エビデンスがないことの問題について後者の非住宅用太陽光を事例に示す。

 我が国のFIT買取価格は、運転開始時にエネ庁に提出する「発電設備設置・運転費用年報(年報)」に基づくコストデータに、適正な利潤を加えて算定される。非住宅用太陽光の買取価格は、12年度はシステム価格32.5万円/kWを基に40円/kWhと定められ、12年10~12月に提出された年報では同28万円に下がったことから13年度は36円/kWhとなった。

 しかし、13年10~12月、同価格は30.5万円と2.5万円上昇していた。そこで、(1)設備認定後の意図的な着工遅延を調査した報告徴収に基づいて収集したデータ(つまり運開前の設備発注段階)により、同価格が27.5万円に下がっていること、(2)非住宅用太陽光発電の設備利用率が13%と従来に比べ1%向上していること――から、14年度買取価格を32円/kWhに切り下げることを調達委で決めたのである。

 32円という買取価格は、依然、欧州FIT先行国と比べて2倍以上の水準にある。米国でも、モジュール価格の低下により、太陽光発電コストは昨年1年間で約3円下がり11円/kWhである。しかし、世界中で日本だけがコストが下がらないどころか、上昇している。普及によってコストダウンを促すFITの政策目的は根底から問い直されている。

 なぜ高止まりしているのか。よく円安が理由に挙げられるが、国内のモジュール出荷価格は国際的な相場に近づいており、円安の寄与度は小さい。考えられるのは、(1)太陽光発電の施工需要が急増しても、同じ地域内の工事・電気設備業者数はそれほど増えないので、工事費等が高騰している、(2)買取価格が高すぎるので、コスト削減意欲が大きくない企業も参入している――ことだ。つまり、よく「日本はコストが高いから買取価格が下げられない」と言われるが、反対に「買取価格が高いからコストが下がらない」可能性がある。

 コストダウンを促すためには入札等の制度変更が必要だが、すぐにでもできることは、第三者へのコストデータの公開である。非住宅用太陽光発電だけで約12万件の年報が提出されているが、領収証等の提出は不要。虚偽報告は認定取り消しになるので、必ずしも多くはないだろうが、単純な記載ミスはありうる。したがって、年報にコストのエビデンスを求めるとともに、コストデータを研究機関などに公開することで、コストダウンを妨げる要因の定量的検証を進めるべきだろう。

確信犯的に再エネ事業者を優遇したエネ庁

 エネ庁の新エネルギー小委員会(以下、新エネ小委)の山地憲治委員長は、「(制度の問題点について)警告が出されていたにもかかわらず、(政府は)今日に至る事態を招いた。予見されていたことなのだから、当然、手を打つべきだった」と批判したとされる(2014/10/01 読売新聞朝刊)。審議会の座長がこうした批判をわざわざ言及することは異例だが、この指摘で念頭にある一つは、買取価格の適用時期を認定時点としたまま放置し続けたことだろう。

 そもそも買取価格の適用時期には、我が国の設備認定時点、電力会社との系統接続の契約時点、そしてドイツ等の主要なFIT導入国のように設備の運転開始時点の3つの段階がある(参考記事「なぜ再エネは接続保留に至ったのか」)。我が国ではこの中で一番早い適用時期を設備認定時点とした。その結果、毎年年度末に駆け込み認定が発生し、設備認定量の1割程度しか運転開始に至っていないことや、空枠取り等の問題が生じていることは、拙稿で繰り返し指摘してきた(「バブルが始まった太陽光発電」「太陽光のFIT認定は一時的に停止を」)。

 空枠取りとは、買取価格の権利を先に獲得し、太陽光パネルの価格が安くなるまで意図的に運開を遅らせる、あるいは当初から発電事業は念頭になく買取価格の権利転売だけを目的としたブローカーを指す。空枠取りの横行は、健全な事業者の排除につながる。電力会社の電力系統への接続は申込順であるため、空枠取りは認定を受けると、買取価格だけでなく、系統接続の権利も獲得している。プロジェクトの熟度が全く考慮されず、運開時点が早いか遅いかという書類申請の申込順だけで、系統接続の優先順位が確定される。

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