権力基盤を強化したい習近平
これがすなわち、中国人自身が編み出した「中華思想」の世界観と歴史観であるが、このような思想的背景と上述のような中国史の経緯からすれば、今の習近平国家主席が「親・誠・恵・容」という奇妙な「外交理念」を掲げてそれを「実践している」ことの真意が実によく分かってくるであろう。
そう、今は権力基盤強化の途中にある習主席は、まさに自分の権力基盤強化のために、中国の「偉大なる皇帝」たることを気取り、上から見下ろすような立場から、中国の周辺諸国、すなわち「東夷・西戎・南蛮・北狄」を「感化」しようとしているのである。
その際、周辺国を「感化」するのにはまず「徳」をもってするべきであるが、習主席が提唱した「親・誠・恵・容」は、現代的外交理念とは相反して極めて道徳的色彩の強いものであることの理由はまさにここにある。このような「外交理念」を提唱しかつ「実践する」ことによって、習近平氏自身が「有徳」の偉大なる「皇帝」になるのである。
「親・誠・恵・容」の外交理念を「実践」することの意味はあくまでも国内における「皇帝」としての権威の樹立と強化にあるため、相手の周辺国がどう受け止めるかは最初から習主席の念頭外であろう。だからこそ、周辺諸国がこの「外交理念」をいっさい無視するような態度を取っていても、当の習主席はいっこうに気にしないのである。
もちろん周辺諸国は中国との現実的な外交関係や経済関係に配慮して、習主席の「親・誠・恵・容」の外交理念を正面から批判したり否定したりするようなことはまずしないであろうから、習主席にとってはそれで十分であろう。後は、中国国内のメディアを総動員して、諸周辺国の知らないところで(あるいは知らないふりをするところで)、主席の「外交理念」が歓迎され大きな成果を上げているような虚像を作り上げればそれで良いのである。
APECは「親・誠・恵・容」を誇示する
絶好のチャンス
以上、「中華思想」という思想的背景から、習近平国家主席が提唱しかつ「実践」している「親・誠・恵・容外交理念」の意味と狙いを探ってみたが、このような文脈からすると、11月中旬に北京で開催予定のAPECは、習主席にとって大変重要な意味を持つ会議であることが分かる。