もちろん、党内の権力基盤という問題もある。これまでの総理にとって、大臣のポストを配ることが党内での権力基盤を維持する上で重要だった。しかし、当選回数の多くない、すなわち、選挙基盤の確立していない一般議員が、なぜ総理に従うかと言えば、総理の人気が高いことで、自分が次の選挙に当選できると考えるからだ。
であるなら、大臣ポストを配って従わせるより、国民の人気を維持するために、閣僚ポストを使った方が得になる。清新な人材、女性閣僚、必要な政策をしっかりと実現できる人、さらには、総裁選で頼りになる有力議員に閣僚ポストを配った方が良いということになる。
どうせ大臣ポストを配り切れないのなら、割り切った方が良い。総裁選のことを考えても、過半数を取ればよいのだから、総裁選のライバルになる有力議員を閣内に入れて融和することは必要だが、現総理を支持しなかった議員を大臣にする必要は乏しいとなる。
このような状況の中で、党首に反抗するのは難しい。党首に反抗するのが可能になるのは、党首の人気が低下し、新しいリーダーを選ばなければ当選できないと多くの議員が考えるようになったときである。これが議院内閣制を採る国で、総理が何年も続けてできる理由である。
ドイツのメルケル首相は05年から現在まで9年首相の座にある。イギリスのキャメロン首相は10年からだが、2代前のブレア首相は10年間首相を務めた。
ドイツの状況
ドイツで大臣の椅子配りができるかどうかを考えてみよう。キリスト教民主同盟のメルケル首相は、9年間に3回しか内閣を改造していない(初代内閣を含んで3回)。少数の閣僚を入れ替えることはあったが、基本的に同じ人間が1つの内閣で閣僚を続ける。しかも、その前は、社会民主党のシュレーダー内閣が7年間続いていた。
ドイツの閣僚数は16人だから、キリスト教民主同盟の議員は、16年間に16人×3の48人しか大臣になれない。しかも、連立相手に大臣ポストを回す必要もある。大臣になれる議員は限られる。イギリスの場合も同じである。
考えてみれば、日本がおかしかったのである。もちろん、党内反対派を組織して、権力を握り、これまでの総理支持者を追い出せば大臣になれる可能性が生まれる。
しかし、多くの若い議員は、次の当選が大事だから、人気のある総理に反抗しようとは思わないだろう。さらに、党首である総理が、公認権や政治資金、副大臣、政務官、大臣補佐官、党の役職のポストのほとんどを握っている。若手議員は、次の総理を狙う有力議員についていくより、総理にこれらのポストを割り当ててもらう方を選ぶだろう。総理の権力は格段に強まっている。