2024年4月24日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2014年11月7日

 中高生の時、当時人気のあった「ベストヒットUSA」という番組をよくみていたが、イギリスのロックバンドの曲を聴いていると、自分の中では、アメリカでヒットしている曲はなにかしっくりこないという感じはあった。イギリスでないとロックではないみたいなことを無意識のうちに感じていたのかもしれないと、本書を読んでみて思う。

「そこに暇をもてあました無数の若者がいた」

 本書ではロックの歴史をこう位置づける

 〈(アメリカで)ロックン・ロールが生まれ、それが流行音楽として廃れ、しかしながらイギリスに引き継がれ、やがてアメリカに逆輸入されるかたちでロックへと移りゆく〉。

 その様々な局面を彩る登場人物が出てくる。エルビス・プレスリーであり、ビートルズであり、ローリング・ストーンズであり、ジミ・ヘンドリクスであり、ボブ・ディランである。そうした存在感のあるスターを随所に、丁寧に取り上げることで、全体像を描き出している。筆者はロックファンの一人ではあるが、マニア的に細かくロックスターの状況を知っているわけでない。むしろ知らないことの方が多い。本書を読んで初めて教えられたことも非常に多かった。読む人を納得させ、ロックの世界にいざなう著者の鋭い筆致と巧みな構成にぐいぐい引き込まれた。

 印象的だったのは、イギリスにロックが生まれた社会的、時代的背景で重要なのが著者のいう「そこに暇をもてあました無数の若者がいた」という事実である。

 1916年から続き、青春期を迎えたイギリスの若者の2年間を「拘束」していたイギリスの徴兵制が1960年に廃止された。「失われた2年間」のはずだった時間が一転しておまけの人生」となり、自由な時間を得た若者が直面したのは、空爆の爆発音からエレキギターの激しいビートへと変わったという指摘である。

 ビートルズやストーンズなどのブリティッシュ・ロックのバンドが1960年代に大量に生まれた背景に、こうした徴兵制の廃止があったことは恥ずかしながら全く知らなかった。社会の変化が若者に影響を与え、若者が生み出す音楽が社会を変えてゆく。筆者は1967年生まれだが、著者の鋭い分析で繰り出す分析を頭にいれながら、この時代のうねりのような動きを想像すると、当時のロックが与えた社会への影響力は今とは比較にならないほど大きかったのだろうと想像する。


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