経済の常識 VS 政策の非常識

2015年3月10日

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経営者の不安心理

 しかし、経営者の立場で考えてみよう。企業には、よく分からない理由で、次々に危機が襲ってくるものだ。『ルーズヴェルト・ゲーム』など、池井戸潤氏の企業小説を読むと、突然の融資打ち切り、取引先の購入中止、購入中止をちらつかせた大幅な価格引き下げ、特許を侵害しているという脅しなど、企業には次から次へと危機が襲ってくる。危機の頻度が多すぎるような気はするが、それぞれはリアルである。個々の企業に対するショックだけでなく、経済全体に対するショックもある。金融危機、世界不況、円の急騰、資源価格の暴騰など、危機はいくらでも襲ってくる。

 一番頼りになるのはキャッシュである。融資を打ち切られてもキャッシュがあれば耐えられる。どんな場合でも銀行が貸し出しに応ずるという契約をすることも考えられるが、突然、融資を打ち切られるのであれば、そんな契約はあてにならないと企業は思うだろう。

 値引き要求に対しても、手元資金がなければ受け入れるしかないが、あれば価格交渉ができる。その価格と品質で他に納入できる業者がなければ、不当な値引き要求であり、価格交渉に強気で臨める。何らかの理由で販売が減少しても、そう簡単に人は切れない。キャッシュを持っていれば、解雇せずに堪えることができる。クビを切れば経営者は社会的に非難されるのだから、キャッシュを持っていることで非難された方がまだましというのも分かる。

どうしたら良いのだろうか

 確かに、企業がキャッシュを溜め込んでいるのは無駄である。しかし、そうしなくてはならない事情も分かる。どうしたら良いのだろうか。

 第1に、政府がマクロ的な経済環境をなるべく安定させることである。金融政策で物価を安定的に2%に上昇させるというのはその一歩である。これには突然の円急騰を防ぐという効果もある。

 第2に、個々の企業の危機に、政府が対応するのは難しいし、一般的には対応すべきではない。銀行がこの企業は危ないから金を返せと言っているのに、政府が大丈夫だから貸しておけというのはもちろん間違いである。ただし、政府の金融監督がまずくて金融危機が起こり、その結果、銀行がキャッシュを求めて貸しはがし、貸し渋りをするのは防がなくてはならない。

 不当な特許侵害訴訟の脅しなどについては、濫訴の制限という政策も考えられるが、何が濫訴であるかを認定することは難しい。企業を襲う危機のほとんどは、売り上げの急減という形で現れてくるから、それに応じた生産と雇用の縮小、すなわち解雇をしやすくすることもキャッシュの溜め込みを減らす政策になる。

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