2024年7月16日(火)

経済の常識 VS 政策の非常識

2015年3月10日

 要するに、溜め込みを減らすために政府ができることは、金融危機を起こさないことを含めたマクロ的な経済環境の安定と解雇規制の緩和ということになる。前者に反対する人はいないだろうが、解雇規制の緩和に反対する人は多いだろう。

 株式会社制度とは、そもそも事業のリスクを分散させるために始まったものである。胡椒や金銀、磁器や絹などを得るために巨大な貿易船を作って、海外に送り出した。難破したり海賊に襲われたりする危険も高かった。しかし、多数の船を送れば、平均的には高い利潤を得ることができた。

 だが、当時の大商人といえども、そんな多数の船を送るだけの資力はない。そこで多くの人の資本を集め、多数の船を送って、失敗を含めて平均的な利潤が十分に高い事業ができるようになった。ルネッサンス期のイタリアの商人が始めたことを、オランダとイギリスがさらに大規模に行い大成功をおさめた。

潰れてはいけない日本企業

 そう考えると、株式会社が潰れるのは当然のことである。個々の株式会社はよりリスクを取った経営をして、すべての株式会社を平均した時に、個人会社よりも利潤率が十分に高くなればよい。人々は多くの会社の少しずつの株主になれば良いのだから。大商人ならそうできるが、普通の人にはできないという反論があるかもしれないが、そういう人は市場平均に連動する投資信託を買えば良い。これで、すべての会社のわずかずつの株主になることができる。

 しかし、日本では株式会社は株主のものと考えられていない。株主にとっては多くの会社の中の一つだが、経営者と従業員にとっては、自分を雇っている会社(多くの人は、自分を雇っているという自覚もなく、「自分の会社、自社」というだろう)は唯一無二のものである。潰れないように経営するのは当然のことである。キャッシュが少しくらい余計にあって、ROEが1%下がって何が悪いというのが経営者の本音ではないだろうか。

 要するに、株式会社が株主のものであれば、企業はキャッシュを溜め込まず、リスクを取るのが正しいが、経営者と従業員のものであれば、キャッシュを溜め込むのも合理性がある。

 また、政府が儲かった会社は賃金を上げろというのは、会社は株主のものということとも矛盾している。株主のものである会社は、同一労働同一賃金の条件で労働者を雇っている。正当な賃金を払っている以上、儲けはすべて株主のものである。賃金を上げる必要はない。

 結局、日本において企業が株主のものでない以上、キャッシュを溜め込むのは当然のこととなる。それを止めさせるためには日本の企業文化そのものを変えなくてはならないだろう。

  
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◆Wedge2015年3月号より


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