目指したのは、「コンビニの2倍くらいの大きさのおむすび、保存料や着色料を一切使わず、その場でむすぶ。しかもむちゃむちゃうまい」。すると初日の売り上げ2万円は、すぐに30万円まで伸びた。いつも5~6個買ってくれる常連さんが、「こんな商売やって合うの?」 と訊いてくれた時、チェーン化の可能性を確信した。日比谷に二号店、新宿に三号店、今では42店舗にまで増えた。そのサイトには、福島の天栄村、秋田の二ツ井町などの米が、どの店で味わえるかもはっきりわかる。米どころ、東北の米が4分の3を占めるだけに、放射性物質の検査結果の数字などもきちんと明記している。
「日本一うまい米というのが売りですから、産地が大切。おいしい米の条件は、まず寒暖差、水、それもできれば伏流水、それに土づくりです」
2013年、岩井さんは、ニューヨークに海外一号店を出店。売上げはうなぎ上りだという。将来の展望を尋ねると「現時点で42店舗、もし、100店舗になれば、2000トンの国産米を扱うことができて、そうすれば、400へクタールの田んぼを再生できる。でも、これもあくまでも通過点です」と頼もしい答えが返ってきた。
神田神保町に生まれた鳴子の米のおにぎり屋
その店は、神田神保町のヴィクトリアやミズノといったスポーツ用品店が建ち並ぶ靖国通りのアパホテルの一階にあった。大手出版社が並ぶ一角も、目と鼻の先だ。
これもまた、全国に267のビジネスホテルを展開するアパホテルとのコラボレーションはこれが初めてで、「宿泊客に、おいしい朝食を提供したい」というオファーがあった。
一方、岩井さんと鳴子との出会いは、新入社員の林田悠子さんを通じてだった。
「若い女の子がデートもせずに、休みのたびにせっせと鳴子に通う。そこで、そんなに人を惹きつけるのは、どんなところだろうと興味が湧いたんです」