「ひととき」特別企画

2015年3月23日

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清流、長良川がモチーフに

 自然から色をいただく。とは、志村ふくみさんの名言のひとつだが、紋紗の人間国宝は今もそれを胸に刻みこんでいる。

 「人間が持っている色彩感覚はたかが知れています。100の植物で染めれば100の色が生まれてくる。しかも二度と同じ色は生まれない」

 自然に敬意をもって、自然に委ねること、それが草木染めの要諦なのだ。

植物で染められた糸はどれも鮮やか。桜染めの糸は中央右寄りの淡いピンクのもの

 桜の木も染材にしますか?

 「なかなか手に入りにくく、しょっちゅうではありませんが」

瑞々しい色糸で織りなされた紋紗は天女の衣のよう。1反織り上げるのに1カ月半ほどかかるという

 かつて染めた糸を見せていただく。茶のような緑のような、むろん桜花の色ではないけれど、風格の気配が漂っている。

 「桜という木は、古典芸能でも詩歌でも人びとがたくさんの物語を与えてきました。年齢を重ねるとともにどんどん好きになってくるのはそのせいでしょうね」

 生まれ育った地には清い川が流れている。長良川だ。優れた和紙を生み、酒を生み、水景色を見せてくれるこの川は紋紗の主題ともなる。川を流れる花筏(はないかだ)のモチーフにより茜(あかね)で染めた作品があると聞き、ぜひとも拝見を請う。しずしずと衣桁(いこう)に掛かった瞬間、ハッと息をのんだ。色彩の響きが部屋の空気を一変させている。迫ってくるのはまさしく爛漫の春の力強さと気高さだった。

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