サイバー空間の権力論

2015年3月16日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

 さらなる転機が2006年に生じた。もともと50年代から存在した、ニューロンやシナプスといった人間の脳をコンピュータ上に再現させて情報処理を行うニューラル・ネットワークという手法を現代版にアップデートさせた「ディープ・ラーニング(深層学習)」という技術の登場である。

 ディープ・ラーニングは先に述べたような物事を認識するフレーム=層が数多く存在しており、コンピュータが自分自身で何層もの認識フレームを用いて学習を進める。その結果、いわゆる人間が考える「概念」というものを獲得することが可能になったことに最大の特徴がある。

 実際にグーグルが2012年、コンピュータに1000万本の動画を見せることで猫の概念を獲得したと発表した。膨大なビッグデータの読み込みとその処理を可能とする性能上昇も相まって、人間が指示せずとも自身で学習を進めるコンピュータが我々人間の認識や意識に近づいたことは言うまでもない。画像認識や音声認識、さらには自動車の自動運転をはじめとして、ディープ・ラーニングは数多くの研究に活かされている。確率論的なアプローチと多層フレームを用いたデータ解析による概念認識アプローチの両面から、人工知能は発展を続ける。

「台風が近づくと朝食用のお菓子が売れる」
相関関係からビジネスを展開する

 こうした人工知能の発展の中で、2045年にコンピュータがあらゆる面で人間の知能を上回るといった議論が注目を浴びている。「技術的特異点(シンギュラリティ)」と呼ぶ2045年を境に、コンピュータは人間の知性を超えた存在となるというのだ。論者によってはコンピュータが人間を超えて神に近づくとも、人間の知性を補強するようになるとも言われ、様々に議論されている。

 とはいえ、現在でもすでにコンピュータがビッグデータから弾き出す計算式を、我々は理解できないことが多い。原因はわからないが、あるスーパーマーケットでは、データを分析すると台風が近づくと朝食用のお菓子が売れる、といったデータが示され、現にそうなっているという(ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、 ケネス・クキエ 著、斎藤栄一郎 訳『ビッグデータの正体』講談社、2013年)。これはすなわち、原因から結果、つまり因果から未来を予想する「因果関係」といった思考枠組みから、コンピュータが場所や天気、人口といった数多くの要因から相関的な結びつきを導き出す「相関関係」に思考枠組みが変化していることを示している。今後は相関関係をコンピュータが導き出し、それに従ったビジネスへと転換していくことが予想されるが、そうなれば人間のひらめきや思考の価値が減少するだろう。

 また2045年を待たずとも、人工知能の発展に伴いホワイトカラーを中心に多くの労働者が不必要になると予想されている。産業構造の大規模な展開は、今後の労働市場にも影響を与えるだろう。

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