曼荼羅そのままの地形の妙
町石道に沿うようにして走る国道を上がる。九十九折(つづらおり)の道は、時に鬱蒼と、時に開けて、高野山へと続く。開けて目にする雄大な風景は、内八葉(うちはちよう)・外八葉(そとはちよう)と呼ばれる峰々の姿。宇宙の根本である大日如来を本尊に真言密教の宇宙観を図解する両界曼荼羅(りょうかいまんだら)のひとつ、胎蔵(たいぞう)界曼荼羅が描く中台八葉院(ちゅうだいはちよういん)の蓮弁の形だ。曼荼羅そのままを地形に得た天空の聖地。西山さんは、車窓から静かに眺めている。
次に訪れたのは、天野の丹生都比売神社。昔は二ツ鳥居のある120町石から神社の参道に入り、丹生都比売神社に参拝してから山上へ向かったそうだ。
昨秋、丹生都比売神社において、高野山が開創1200年を迎えるのに先立ち、重要な儀式が執り行われた。日本最大規模を誇る一間社春日造(いっけんしゃかすがづくり)の本殿四殿の調査修復が終わり、37年ぶりの正遷宮。しかも、明治以来途絶えていた、高野山真言宗管長による奉幣が復活したのだ。
空海が丹生都比売大神より高野山を借り受けて以来、高野山と丹生都比売神社は神仏共存の聖地として信仰を集めた。明治維新を迎え、神仏習合の歴史はあえなく断ち切られてしまったかのうように見えたが、高野山上の御社(みやしろ)での神事は続き、さらに今回、神も仏も共にある、本来の姿が戻ってきたのだった。
写真:森武史(もり たけし)
三重県生まれ。大阪芸術大学卒業。紀伊半島の風景を中心に撮影。写真集に「くまのみち」「絶海」「熊野修験」「神宮の森」などがある。
アイコン:「こうやくん」
高野山開創1200年 マスコットキャラクター ©こうやくんPJ
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