そして高橋花子さん(28歳)は、8年間も国内外を放浪、ここへ来る直前は和歌山の柑橘農家にいた。将来は「地元の十勝で自給的な暮らしを目指している」。菅谷健さん(たける、27歳)は、フィリピンで有機農業の指導をした頃、多国籍企業や政府の犠牲となる先住民の悲劇に立ち会う。そこで「食卓を通じて世界を変えよう」と転職、将来は「芸術や四季と寄り添う交流の場を作りたい」そうだ。田中比香里さん(27歳)は元小学校の先生。大学時代から客として足を運び、イベントに参加した憧れのカフェ。「木凛」の名でエコなモノづくりも手がけている。厨房の強力な柱である北村朋子さん(34歳)は、都心でマクロビのお弁当屋をしていたが、「震災後、これまで受け身だった食や環境の問題をカフェスローという場で発信する側になろうと決意した」。
また松島美波さん(28歳)は、かつて都心の飲食店で働いていた。大学の頃、ピースボートに乗船、「農と食を通じてサスティナブルな暮らしと場を作りたいと転職。将来は「環境運動から農家となった兄の農場」で、ここと同じような場を作りたいという。森田千尋さん(29才)は、大学卒業後、インドネシアに滞在。『第三世界ショップ』でフェア・トーレドの輸入販売を手がけた。地域に根差した暮らしを目指し、「手に職をつけようと思った時、夢中になれたのが料理。将来は、自然豊かな地で家族を持ち、農のある暮らしを実践しつつ交流の場を作りたい」という。
思うに、彼らは、地域社会にも、地球にも優しい場づくりと、新しい働き方を模索する日本の最先端でもある。そんな彼らに負けじと、吉岡さんも世界遺産や人権問題の教鞭を執る一方、3年前からは地元の国分寺に馬車を走らせたり、ピクニックを楽しむイベント『ぶんぶんうぉーく国分寺』も仕掛ける。
「もっと安心して子育てができる町を、このカフェを中心にして作っていけたら。それと頑張ってくれている彼らの待遇をよくするためにも、フランチャイズは嫌いだけど、彼らが資金を一から調達せずに新しい店を始められるようなしくみも整えていく必要はあるかなと思っています」(吉岡さん)
創業15年を迎えた『カフェスロー』には、ここで働いた人や見学にきた人を中心に、全国に同じような店を創る心のフランチャイジング現象が広がっている。沖縄のやんばる、北海道の浦賀『べてるの家』、湯布院、神奈川県の戸塚『カフェ・デラ・テラ』などは、大岩剛一さんがデザインも手がけ、吉岡さんらも相談にのった姉妹店のような存在。
子育ての頃にも、こんな暖かで刺激的な店が近所にあれば、どれほどありがたかっただろうと思うが、これからだって、つまり老後も、こんな店が各地に増えれば、捨てたものではなさそうだ。
◆修正履歴
「国分寺駅北口から歩いて5分」は、正しくは「国分寺駅南口から歩いて5分」でした。訂正してお詫びいたします。該当箇所は修正済みです。(2015.5/12 10:43 編集部)
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