だが、AIIBへの懸念も少なからず主張されている。たとえば、AIIBが西側の金融機関に対抗しうるグローバルな機関に成長するまでの、またAIIBが米国主導の経済システムの打撃になる道のりは極めて厳しいと考えられているし、このプロセスにおいて、ロシアが望む中国と米国の関係悪化には大きな影響は生まれないだろうとも予測されている。
加えて、すでにロシアが参加している新開発銀行とAIIBの類似性とそれによるリスクも指摘されている。双方は共に、インフラ投資に主眼を置いており、定款資本の額もほぼ同レベルである。またどちらも現在、スタート段階にあるということも共通しており、両方に関われば、共倒れする可能性があることも危惧されている。ロシアは、どちらかより有望な銀行を選んで、そちらの発展に集中すべきではないかという意見もあるのである。
だが、新開発銀行とAIIBの両方に参加することに意義があるという意見もある。AIIBはアジアというロシアにとってとても重要な地域におけるロシア経済の統合強化のツールになりうるというのだ。短期的なリソース誘致という観点にとどまらず、アジアへの投資を長期的視野で考えれば、必ず有益だという。
ともあれ、新開発銀行とAIIBが並行して進められているのは間違いなく、またそれが国際通貨基金(IMF)や世界銀行(WB)、そしてADBなどの既存のグローバル経済システムや金融機構の不十分さへの挑戦が二方向から始まりつつあると考えられるだろう。そのような前提の下、新開発銀行とAIIBは競争ではなく協調の道を歩むことができ、それにより、両行が世銀などへの脅威となるのだと主張する論者もいる。
このように、ウクライナ危機の下での、中国のグローバル経済に対する新たな動き、そして中国・ロシアの外交・経済面での接近は(お互いに強い警戒心を持っていて、対米政策など大きなレベル以外では実はライバル関係にあるが)、ロシアの経済にとって有利であると同時に、グローバル経済への挑戦となりつつあり、対露制裁の意味をますますなくしているのである。
とはいえ、ロシアの経済が厳しいことに間違いはない。ロシアはまずは自国の経済の立て直しを早期に成し遂げることによって政権の安定維持を図りながら、対外的な経済協力を強化して、経済大国としての立場を世界にアピールしていくことを目指していくだろう。
■編集部より:4ページ下から二段落目の「積極的に新開発銀行への参加表明を」は、正しくは「積極的にAIIBへの参加表明を」でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2015/04/12 20:20)
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