解体 ロシア外交

2015年4月9日

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むしろロシアにとって良い面も?

 そして、制裁はロシア国民の反欧米意識を高め、ひいてはプーチン人気を高めることにもつながっているという。前述の拙稿で述べたように、ロシア経済の悪化はウクライナ危機の前から予測されていたことであった。そのため、仮にウクライナ危機が起こらなかったとしても、おそらくロシア経済は落ち込んでいたと想定できるのだが、もしそうなっていれば、プーチンの失策として批判が高まっていたことだろう。だが、欧米による経済制裁が発動されたことにより、政権は経済の悪化を全て欧米のせいにすることができ、インテリ層などは別としても、国民の多くは経済の悪化に関する不満を欧米に向ける傾向が強まる。その結果、国民の愛国心も高まり、ウクライナ問題でも強気の姿勢を崩さず、欧米と対峙するプーチンはますます尊敬の対象になりうるのであり、プーチンの支持率も高まると考えられる。

 最後に、これは完全に「最もうまくいった」場合の仮説に過ぎないが、この制裁がロシアの経済システムを根本的に改善するきっかけとなる可能性もある。ロシアは制裁および自らが発動した報復措置により、トルコ、南米、中国などからの輸入代替を強化する一方、国内生産の充実と自給率の拡大を推進している。さらに、かねてより問題となっていた国内の汚職廃絶をも成功に導けるかもしれない。しかも、そのプロセスでは、国民が痛みを伴うこととなるが、国民はその痛みも欧米のせいだと感じて耐える可能性が高くなる。こうして、もし国内経済の立て直しが、国内自給率拡大や汚職廃絶を伴う形で成功してしまえば、それはプーチンの歴史的偉業となってしまうだろう。

 さらに、ルーブル暴落がむしろロシアにとってメリットとなっているという議論すらある。図1を見ていただきたい。石油価格とルーブルレートは実に綺麗に連動しているように見える。ロシアのエネルギー収入は外貨であるため、いくら石油価格が下落しても、それと近い率でルーブルレートが下がれば、国内に流通するルーブルは目減りしないということになる。そのため、ルーブル下落はロシア中央銀行が関与しているという陰謀論すら主張するエコノミストがいるほどだ。ともあれ、国内のルーブルが温存されている以上、ルーブル下落で痛い思いをするのは、海外旅行や輸入品を購入する者や外貨を所有する者のみだということになる。確かに一連の制裁により、モノ不足、インフレなど、多くの国民が経済問題で打撃を受けているが、このように考えれば、ロシア国内でルーブルのみを用いて生活する以上、極端な打撃を受けることは避けられそうだ。

図1 2012-14年のルーブルレートと石油価格の変動
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 さらに、この状況は上述の国内自給率拡大や汚職廃絶にも貢献する。ルーブルで経済を回すことになるので、国内産業振興を促進するだけでなく、内需を高め、海外依存率も下がることから、自立性の確保にも役立つだろう。また、海外に巨額の富を確保している財閥や富裕層には打撃になる一方、彼らがロシア国内に財を戻すインセンティブにもなり、マネーロンダリングをはじめとした国際的な汚職廃絶にも役立つ可能性があるのである。

 このように、制裁は、欧米が目指してきたグローバルな政治経済システムを破壊する一方、プーチン政権に利点すら提供していることになりうるのだ。

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