住民からよく聞かれるのは「あれだけ津波で流されたところに土を盛って住めるのか」という声だ。市側は「一般的な木造2階建てが通常の基礎で建築できる強度を確保し、地盤沈下は工事完了までに収束することを試験盛土で確認済み」と説明するが、埋立地で地盤沈下や液状化が発生しやすいことはよく知られており、計画発表当初、かさ上げした津波浸水域に戻りたいと希望する住民は非常に少なかった。
そこで市は、高田、今泉両地区に高台エリアの住居をそれぞれ約600戸、約300戸用意する土地利用計画を立てた。しかし、その後の換地意向調査で高台希望は285戸、156戸に激減。多くがかさ上げ地希望に変わった。理由は、「宅地引き渡し後2年以内に工務店などと建築契約」が高台移転の条件に加わったことだ。「すぐに宅地を立てる自信がないのでとりあえずかさ上げ希望に丸をつけた」という人が少なくない。
そのほかにも、5戸以上で集団移転する防災集団移転促進事業(防集)や、津波復興拠点整備事業といった枠組みを使い、市による土地の買い上げを希望する人も増えている。他に災害公営住宅も1000戸整備される予定だが、入居を開始している団地ではもう空室が発生している。
市全体の人口は、住民票ベースですら2割減り、2万人を割り込んできている。区画整理事業全体の完了は18年度で、家を建てるのはその後だ。待ち切れない住民たちが次々に自主再建や市外への転居を選択している。
かさ上げ地では町の中心として商業の復興も不可欠だが、被災した約600の事業所のうち、営業再開したのは約半数。一方で廃業は230に上る。高台の人口密度も、かさ上げ地に戻ろうとする住民の意思も、今後さらに薄まっていく可能性は高い。陸前高田の復興計画はどこを切り取ってもオーバースペックになりつつある。