首相は「痛切な反省」「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」、そして歴代首相の見解の踏襲について語り、聴衆の最大の関心にもある程度こたえた。米国の戦死者への追悼の念を語った上での発言だったことで、列席者は反省の姿勢を真摯なものと受け止めたであろう。
しばしば声高な自己主張が対外広報強化とみなされるが、相手に受け入れられなければ意味はない。その点、今回の首相演説は、米国の言説空間にそくして、語るべきことを語ったものと評価できる。
歴史問題の表現ぶりも受容
演説の成功は、聴衆受け以上に、国際広報上の目的を達成できたかどうかではかられる。
私のみるところ、第一の目的は、歴史認識等で地域を不安定化しているのは日本だとする中国や韓国の主張が米国で浸透するのを防ぐこと。第二の目的は、米国が主導する国際秩序、地域秩序を力強く支持し、日本自身も共に責任を負う姿勢を示して、日本と同盟への米国内での支持を確たるものにすることである。
今回の首相演説はいずれの目的にも適っていた。日米の和解が堅固であり、安倍首相の歴史問題での表現ぶりが米国の大勢に受容されることがはっきりした以上、日本側がそのラインから外れなければ、中韓にとって歴史認識で米国に働きかけても効果は期待薄である。そして、経済分野や安全保障分野での日本の積極姿勢を語り、日米同盟を「希望の同盟」と形容して演説を締めくくったことは、同盟の前向きな性格を印象づけただろう。
今回の演説が、戦後70年という一見不利な環境で、国際広報面での日本のイニシアティブ回復を可能にしたことは正当に評価されるべきである。他方、8月の新談話、TPPや基地問題などで、安倍政権が期待外れの行動をとれば米国内の風向きは容易に変わりうる。2013年の朴大統領の米議会演説は熱狂で迎えられたが、その後の米韓関係は良好とはいえない。
要するに外交と同じく、国際広報にも終わりはない。議会演説が拓いた地平を活かし、国内外での適切な行動と相乗効果をはかりながら、新たな広報機会を継続的に作り出すことが期待される。
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◆Wedge2015年6月号より