2024年4月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月29日

 イラクとサウジは喧嘩させておけばよい。イエメンは50年に亘る内戦を続けさせておけばよい。米はアジアにエネルギーと努力を集中すべきだ、と論じています。

出典:Fareed Zakaria,‘Whatever happened to Obama’s pivot to Asia?’(Washington Post, April 16, 2015)
http://www.washingtonpost.com/opinions/the-forgotten-pivot-to-asia/2015/04/16/529cc5b8-e477-11e4-905f-cc896d379a32_story.html

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 中東とアジアの重要度を比較して、アジアの重要性の方が高いと明快に言い切っている論説です。ザカリアとてイランとの核交渉等中東の問題を軽視しているわけではないでしょうが、アジアは中国の存在ゆえに今後の世界システムに影響する最重要地域であり、外交の優先順位の問題として、米の外交リソースをそこに集中させるべき、との主張には説得力があります。

 一般論として、アジア回帰政策は、軍事オンリーの政策ではなく、対中エンゲージメントなど政治外交を含むべきものです。中国を国際社会の一員として受け入れ、同国が国際社会のルールに従って、その力に見合う役割を果たすように促す必要はあります。問題は、中国が国際的な手続きとルールに従って交渉、協議、協力していく用意があるのかどうかにあります。この点、AIIB構想は、中国が一方的に国際機関を設立、マネージしていこうという、今までに例を見ない「一方的な多国間主義」とでも言うべきやり方で進められ、それを英、独など欧州が認めてしまいました。中国は、特に欧州を味方につけたことに自信を強め、これからも同じやり方で国際協力を進め勢力圏を拡大していけると誤信している可能性があります。

 習近平政権になって、中国は、鄧小平の韜光養晦路線を転換し、過剰とも言えるほど自信を強め大国外交を強力に推進することを憚りません。「新型の大国関係論」のように、自国の力を過大評価し、他国を過小評価する傾向があります。「中国の戦略は経済発展を通して勢力圏を拡大していくことにある」とのザカリアの指摘はその通りです。もっとも、そう言いながらAIIBへの反対を批判しているザカリアの論理は、首尾一貫していないと言わざるを得ません。いずれにせよ、中国との関係においては、軍事面とエンゲージメントのバランスをよく考える必要があります。後者を重視することが「現実的」である、とするような議論もありますが、それに与することは出来ません。

 なお、ザカリアが日米同盟を通して米国が対中戦争に巻き込まれるのではないかと議論していることには疑問がありますが、米国内にそういう議論があることには留意すべきでしょう。日本としては、安全保障上の自助努力を一層進めることを明確にし、そうした議論が根拠に乏しいことを示していく必要があります。

  
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