2022年8月18日(木)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2015年5月28日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

新潟県立大学国際経済学部教授

1952年生まれ。東京大学法学部卒。日本興業銀行入行。パリ興銀社長、みずほ総合研究所チーフエコノミスト、経済産業研究所理事長などを経て2020年4月から現職。主な著書に『大過剰 ヒト・モノ・カネ・エネルギーが世界を飲み込む』(日本経済新聞出版社)。
 

 ちなみに、アメリカのリーマンショック前の状況を見たのが図表7である。このグラフを見ると、失業率と均衡失業率の差が1%を割るあたりから賃金上昇が加速している。したがって、現在のアメリカの労働市場の構造が以前と同じとは言い切れず、統計の正確性の問題などもありうるものの、現状はもう少しで賃金上昇が加速する局面に入るようにも見える。

【図表7】米国:名目賃金と失業率の関係(2003/2~2007/8)
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 そうなれば市場で注目されているアメリカの利上げの有力な材料ともなるが、アメリカの労働需給と賃金の関係は経済学が示す考え方に沿っており、正常かつ健全に見える。労働需給と賃金上昇の相関度合が強いだけではなく、労働需給がひっ迫すれば賃金上昇が加速する動きも近年にあるからである。その上で、金融政策の重要な材料ともなり、経済と金融のバランスの取れた関係にもつながっている。

 実は、日本でも労働需給と名目賃金との相関が、アメリカほどではないにしても、比較的明確にあった時期がある。それは90年頃までの時期である。しかし、その後のデフレや就業者に占める非正規雇用者割合の上昇で、今や労働需給と名目賃金の関係は不明確になってしまった。

経済活性化の大きな指標になる名目賃金増加

 日本の一人当たりの2014年名目賃金は、賃金構造基本統計調査では1998年の水準、毎月勤労統計では1990年の水準に止まっている。しかも、物価分を控除した実質賃金と失業率との関係を見ると、労働需給が引き締まるほど実質賃金が下落するというフィリップス曲線とは真逆の相関すら見て取れる(図表8)。

【図表8】日本:実質賃金と失業率の関係
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 確かに、この1年間消費税引き上げが物価を押し上げており、その分実質賃金を下落させていると言える。しかし、それでも消費税率引き上げ前から真逆の相関があるのでは、労働需給と賃金との関係が必ずしも正常にはなっていないと言わざるを得ない。

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