東日本大震災以降、原子力発電所が1基も稼働しなくなるなど、日本のエネルギー事情が厳しくなる中で、2030年に向けての望ましい電源構成案(エネルギーミックス)をまとめた坂根正弘・総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長(コマツ相談役)にインタビューし、日本の取るべき立場を聞いた。
1941年生まれ。島根県出身。63年に小松製作所に入社、01年に社長、07年に会長を経て、13年6月から相談役。10年から14年まで経団連副会長、14年まで経団連の環境安全員会の委員長を務め、エネルギー、環境問題に詳しい。14年から総合資源エネルギー調査会会長。
Q:エネルギーミックスをまとめるに当たっての基本的な考え方は
A:3・11の東日本大震災以降、エネルギー情勢が一層窮屈になってきた。電源構成となる原子力発電のランニングコストは低いが、事故が起きた場合には社会的ダメージは大きな費用が発生する。再生エネルギーの風力はまさに風任せ、太陽光は日中しか発電できない。水力や地熱は発電までに10年以上の年月が掛かることもあり、バイオマスは小規模なものは地元で原料を賄えるが、大きくなると燃料を輸入しなければならない。化石燃料はCO2を多く出すなど、それぞれ一長一短がある。結局、これを、安全性(S)と三つのE(安定供給、経済効率性、環境適合)の「S+3E」の視点で、いかにバランスをとることでしか答えが出せない。その前提となる経済成長率は政府目標の年率1.7%にすることにした。エネルギーミックスは3年に1回は検討を加えることになっているから、成長率が変わればその時に見直せばよい。
Q:電力コストが上がることが心配されている。コストについてどのような議論があったのか
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A:電源構成のバランスからみて、原発はどれくらい必要かという中で20~22%という数字になった。いまある原発に原発の寿命が40年という説を踏襲すればよいという考えの人がいるが、そうすると原発比率は15%程度にしかならず、足りない。これを再生エネルギーで埋めようとすると、1%当たり年間2180億円余分にかかるので合計で1兆数千億円の負担増になる。CO2は増やしたくないので、一番の「逃げ道」はコストになる。委員の中には「コストはいくら掛かってもよい」という人がいるが、これ以上、電力コストが上がったら国民の省エネ意欲がそがれる。省エネについてはエネルギーミックスの外数として、70年代の石油危機の後と同じレベルのチャレンジングな目標を前提にしている。最も大事な省エネが進まなくなると、CO2が増えてコストも上がるという最悪のパターンになる恐れがある。
大震災以降、家庭用電力料金は2割上がり、産業用はドイツと並んで一番高くなり、産業界から悲鳴が上がっている。電力コストが過度に高くなれば、海外に工場を作った方がいいとなって、国内の設備投資意欲をそぐ。そうすると、省エネ技術も進歩しない。電力コストは省エネと密接に絡んでいるので、少なくとも現状以上の電力コストアップは抑えたい。