「日本を取り戻す」との安倍首相の主張に違和感を持ち、もはや成長は不要、アベノミクスはアホノミクスあるいはアベノリスクと批判する人がいる。報道ステーションにゲスト出演する経済関係のコメンテーターがその典型だ。しかし、成長がなければ、給与も増えない。多くの人は、成長は不要という主張には同意できないのではないか。
いま、給料日のことを考えないで生活している人は何人いるのだろうか。日本で働いている6300万人の大半は、次の給料日はいつか意識して暮らしているのではないだろうか。働いている人たちの平均給与は、97年をピークに20年近くの間、名目でも実質でも波を描きながら下落を続けている。多くの人たちが賃上げを望んでいるはずだが、そのためには、経済が成長することが必要条件だ。
金融業あるいは観光業の成長への期待もあるが、日本は金融業を伸ばすことは難しいし、観光業では、平均給与を増やすことは難しい。日本経済の状況下では経済成長には相対的に1人当たり付加価値額の大きい製造業の成長が必要だが、そのためには安価、安定的なエネルギー・電力供給が実現されなければならない。しかし、先日発表された2030年のエネルギー・電力需給計画は、アベノミクス実現には明らかに力不足だ。アホノミクスと呼ばれないためには、適切なエネルギー・環境政策が必要だ。
金融、観光は日本経済成長の
原動力には力不足
図-1が2030年のエネルギー需給計画だ。経済成長を実現しながら、大胆な省エネを進め、エネルギー消費を削減する姿が描かれている。2030年のエネルギー需給計画の前提は年率1.7%の経済成長だ。経済成長のためには、労働人口が増えない日本では1人当たり付加価値額の高い分野での成長が必要になる。
金融業、情報通信業、製造業がそれに相当するが、図-2が示す通り、日本での金融・保険部門の付加価値額は減少している。金融・保険などの部門の成長は情報通信部門にも影響を与える。図-3に示されている英国の金融・保険部門ほどの成長を日本が実現できないのは、英国シティのような金融街の歴史がないこと、金融業界で利用される言語が英語であることも影響しているのだろう。
成長のためには観光に力を入れ、外国人観光客が日本で落とす金を増やせばよいとの考えもある。多くの地方が観光に力を入れ、ゆるキャラを作り、B級グルメ、名産品を売り出している。テレビ番組を見ていれば、どの地方にも名産品があり、観光のネタがある。つまり、あらゆる地方が観光を成長のネタとして持ち出すことが可能だが、競争相手もとてつもなく多い。一部の地域以外では観光のもたらす効果は限定的だ。
さらに、観光産業が作り出す付加価値額が相対的に少ないとの問題もある。昨年の過去最高の訪日観光客1341万人が日本で宿泊、外食、買い物、交通費に使った金は約2兆円だった。誘発効果もあり経済成長には寄与するが、大きく経済を引き上げ、1人当たりの平均給与が上がることにはならない。ちなみに製造業の売上額は約390兆円ある。