漁師たちが沖でクジラやイルカの群れを見つけると、他の漁船にも連絡を取り合って、そのポイントに集結する。そうして、互いに協力し合って、群れを漁船で囲むようにして湾に追い込む。群れが発見された情報は、瞬時に陸側の街々に伝達され、浜では多くの住民たちが銛を準備して、待ち構える。漁船に追い込まれた群れが陸に近づいたときに、男たちが一斉に波打ち際に駆け寄り、クジラを仕留めるのである。
和歌山県太地町の追い込み漁でも、湾内でイルカを仕留めることは「残虐だ」と非難されているが、フェロー諸島では、太地よりも壮大なスケールで捕獲が行われるため、大量の血がクジラから吹き出て、海が真っ赤に染まる。漁は最初から最後までまったく隠すことなく行われる。子供たちも漁に参加して、親や祖父からクジラを仕留める方法を教わる。
島に捕鯨という職業はないのだという。誰もが別の本業を持っていて、携帯電話やラジオを通して「これからクジラを追い込む」と呼び出しがあり、漁に参加する。そうして、群れの全てのクジラを仕留めた後、警察署長が伝統的な計算方法を使って、無料で各世帯均等に鯨肉を分配する。住民は自分たちで食肉処理を行って、各家庭に肉を持ち帰るのだ。
米国の研究者によると「フェロー諸島の捕鯨は、世界中で最も長い間、やり方が変更せずに続けられてきた。コミュニティー全体が参加する漁なのだ」と指摘している。
地元の食文化を阻止するシー・シェパード
鯨肉はステーキ用に焼いたり、日干しにして保存食にしたりする。地元の住民は「フェローでは、日干しされた鯨肉はとっても日常的なもので、ごちそうだ」とも語っている。鯨肉を薄くスライスして、刺身でも食べるのもフェローの地元料理だ。脂身はポテトと一緒に重ねて食べる。
シー・シェパードに限らず、クジラやイルカを食用にするフェローの文化は、欧米各国はもとより、デンマークの本土の一部の人たちからも批判されてきた。しかし、フェロー諸島の自治政府は、海がクジラの血で真っ赤に染まる様子も「大自然の生き物が織りなすドラマチックな鮮血の色なのだ」と反論する。
さらに、「大自然の資源を使うのは、フェロー諸島の島民の権利。ゴンドウクジラ漁は厳格に管理されており、持続的可能であり、フェローの暮らしの一部なのである」と反論している。
シー・シェパードはこうした地元の食文化を阻止しようとしているのである。ポール・ワトソン容疑者は「野蛮な方法であり、どの文明化した社会でもありえない」と主張している。