日本列島は、危険な変動期に入ったらしい。巨大地震や火山噴火のみならず、ゲリラ豪雨や台風による土砂災害、雷、竜巻など、経験したことのない自然災害や異常気象に足下から揺り動かされている。
「想定外」の事象に見舞われた東日本大震災を教訓に、自然災害や事故への危機対応はわずかなりとも前進しているように見える。しかし、一般市民としての私たち自身の”備え”はできているだろうか? 個人として、あるいは集団として、危機に対処し、生き延びる自信があるだろうか?
そう問われると、私は全く心もとない。水や懐中電灯を緊急持ち出し袋に入れてはいるものの、火災が起きたら高層マンションの自室から逃げおおせるか、わからない。
地下鉄で、飛行機で、満員のコンサート会場で、海や山で、予期せぬ事態に巻き込まれたら・・・・・・。
9・11、欧州熱波、カトリーナ
著者は『タイム』誌のシニアライター
本書は、そんな「考えもしていない」「想像を絶する」惨事に遭遇したとき、人間はどのように行動するのか、そして、生死を分けるのはどんな行動なのかを、惨事の記録と生存者たちへのインタビュー、専門家への取材を通じて明らかにしていく。
著者は、雑誌『タイム』のシニアライター。2001年にはマンハッタンから「9・11」について、03年にはパリから欧州の熱波について報道し、05年、ハリケーン「カトリーナ」などに関する報道で『タイム』誌の全米雑誌賞受賞に貢献したという。
08年に上梓された本書は、著者の第1作。訳者によると、15カ国で翻訳出版された。構成がやや行きつ戻りつして読みにくい点はあるが、さまざまな惨事を生々しく再現する“生き証人”たちの物語は、心を深く揺さぶる。
一方で、心理学者や脳科学者、テロ対策専門家、警察官、消防士、パイロットの指導教官などに意見を求め、科学的な検証を試みる。模型飛行機の墜落実験や火災の模擬体験に著者が体を張って挑んだ現場レポートも、読み応えがある。