2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2015年8月12日

 この「ダビク」に今、スポットライトが当たっているのは、最近の戦況と密接に絡んでいるからだ。トルコは先月、IS戦争に本格的に参戦することで米国と合意。米国に南部のインジルリク空軍基地の使用を認めるとともに、その見返りとしてトルコ国境沿いのシリア領北西部に長さ100㌔、幅60㌔の「安全保障地帯」を設置することになった。その一帯からは、IS勢力を完全に駆逐するという計画だが、問題は「ダビク」がこの安全保障地帯のほぼ中央に位置しており、双方の激突が不可避だという点だ。

 つまり、ISにとっては予言的な「ダビクの戦い」がいよいよ始まるという意味であり、「それこそ手ぐすねを引いて待っている」(ベイルートの情報筋)緊迫した状況になっている。米国は徹底した空爆でISの戦力をできる限り削ぐ方針だが、米国が対IS戦のために養成しているシリア人の地上部隊はわずか50人程度しか育っておらず、しかもすでに一部は国際テロ組織アルカイダのシリア分派「ヌスラ戦線」の攻撃で戦死してしまっている。

死に備えて権限委譲

 ISの指導者アブバクル・バグダディは「ダビク」での決戦が迫っていることもあってか、自らが戦死した場合でも、素早く組織が適応し、戦闘の継続を確実なものにするため、指導者としての権限を組織の最高意思決定機関である「諮問評議会」に生前委譲していることが最近明らかになった。

 バグダディは権限の生前委譲を米軍の空爆で多くの指導者を失ったイエメンの「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)から学び、また米国がISに関する情報をどうやって入手しているのかについては、米国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン氏の暴露事件から研究しているのだという。

 米有力紙によると、こうしたISに関する情報は、米特殊部隊による5月のIS幹部の潜伏先への急襲で押収した証拠物件から突き止められた。しかし、バグダディの潜伏先や、バグダディが単なる組織の宗教的なお飾りで、実権を握っているのがイラクの元軍人なのかどうかなど謎に包まれた部分も依然多い。

「ダビクの戦い」は当然、米軍の懸念の的になっており、米国はシリアでの同盟者であるクルド人武装勢力との連携を深め、ダビク対策に本格的な取り組みを開始した。

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