オバマ米大統領がこのほど発表した人質政策の変更は大国の身勝手さを浮き彫りにしたものとも言えそうだ。他国に押し付けていた政策を国内事情であっさり変えたからだ。折しも日本人がまたシリアで行方不明になっているという情報が流れる中(編集部注:ウェブ上ではジャーナリストの安田純平氏の名前があがる)、日本もこの人質政策の転換の影響を受けるのは避けられない。
テロリストとの交渉も
米政府はこれまで「テロリストの要求には一切譲歩しない」ことを基本方針に、時には「テロリストとは交渉しない」とも表明してきた。人質の家族が犯人側と交渉したり、身代金を払って人質を解放させるということに対しても強く反対してきた。
中東の過激派組織「イスラム国(IS)」にフリー・ジャーナリストのジェームズ・フォーリ氏が人質になった時には、同氏の家族が身代金を支払うのはテロ支援と同じだ、と当局者から再三警告を受け、もし身代金を支払えば、訴追されるだろうとまで脅された。このため家族はネット上で続けていた身代金の募金を中止せざるを得なかった。
しかしオバマ大統領は6月24日、この人質政策の大転換を発表。家族が人質解放のために身代金を支払うことを容認し、情報の提供や精神的なケアなどテロリストと交渉する家族を支援していくこと、さらには身代金を支払わないという長年の方針に変更はないものの、政府当局者がテロリストと接触、直接交渉することを承認した。人質の家族らからの批判に応えた政策変更である。
日本政府は1月、ジャーナリスト後藤健二氏、湯川遥菜氏のイスラム国による人質事件が起きた際、「人命第一」とする一方、「テロリストの要求には屈しない」と繰り返した。5月に出た事件の検証委員会報告書では、政府対応の適切さが強調された。
(画像:Getty Images)
日本政府には1999年に中央アジアのキリギスで日本人技師4人が過激派の人質なった際、3億円の身代金を支払って解放させた実績があるが、今回のISの人質事件では、後藤さんの妻が犯人側と交渉するのを黙認する一方、政府が直接的に交渉する意思は当初からなかった。「魂が入った対応ではなかった」(政府関係者)のである。