ネットツールは“玉石混合”
「でも、男性に対する不信感は、さらに大きくなりました」
と彼女は言ったが、私は彼女の行動にも驚いていた。
というのも、ネット婚活自体、「玉石混合なツール」であるとはある程度知られていると思っていて、真面目にやっている人が多い一方で、怪しい人もいることは、万人の了解するところだと考えていたからである。だから、彼女が1ミリも疑いの心を持たないで突き進んだことに、衝撃を覚えたのだ。
もちろん、ネット婚活を利用して、素敵なパートナーを得た人も、実際に何人も知っている。それどころか、今現在利用している男女も、具体的に顔を思い浮かべられる。だから、誠実な人が利用するツールであるのも、事実だとわかっている。
けれど、誠実でない人もいるだろうことも予想されるので、慎重になるべきところは慎重になるべきだろうと誰もが心得ている……と、そんな風に思ってたのだ。
しかし、目の前にいる奈央さんは、「酷い目にあった」と感じる経験をした。
きちんとした社会人の、30代であるにも関わらず……。
36歳という“引け目”
念のため補足しておくと、出会ってから2か月が経過する今日までに、奈央さんとは何度か話をした。そして会うたびに知っていったのだけれど、彼女は「ごくごく普通の常識的な社会人」の一人だった。
もちろん、ネット婚活を始めた当時は、かなり動揺していただろう。常識的な判断ができなくなっていたのも仕方がなかったのかもしれない。いいえ、それは2カ月が経過する今でも実際には変わりなく、彼女は常識的な判断ができる状態でないのかもしれないが……。
というのも、奈央さんは言っていた。
「36歳という年齢は、婚活市場では人気がないんですね。みんな、35歳までで検索をかけるようで、私には誰からもメッセージが来ません」と。
そんな“引け目”が、「この人を逃したら……」という気持ちを産んだのかもしれないし、同僚を見返すためにも、「感じのいい」プロフィールに引き付けられたのかもしれない。
けれど、私は思うのだ。
ネットで婚活を始めようとする人たちのいったい何割が、通常の状態で婚活を始められるのだろうかと。奈央さんのように、失恋したり、思いつめたりした結果、利用を決める人だって実際には多いのではないだろうか。
そう考えると、弱った心に巧みに忍び寄る人たちを避けられなかった彼女を、「浅はかだ」と言うことなどできない。「自分だけは大丈夫」ということは、どのような場面においてもあり得ないのだという事実を、改めて肝に銘じるだけだ。