現代EU女工哀史
4月30日、クレタ島最後の夜。
夕刻ユース・ホステルのテラスで夕陽を見ながらオランダ人のヤン青年とビールを飲みながら買って来たドネル・ケバブを食べた。彼も御多分に漏れず失業中。しかし若年労働者の失業が常態化しているためか平然としてあっけらかんと珍道中のエピソードを披露する。とにかくバックパッカーの半分は失業者ではないかと思われるくらい失業中の若者に頻繁に遭遇する。しばしば「I’m between job」という洒落た表現をする御仁もいる。
8時過ぎに部屋に戻ろうと階下に降りるとソファーで二人の女子が深刻そうにビールをチビチビやりながら話し込んでいる。私が「いったい、どうしたの」と声をかけると、待っていましたとばかりに二人のマシンガントークが炸裂。
要約すると一人はスペイン出身、もう一人はクロアチア出身で大学を出たけれど故国ではまともな仕事(quality job)が無く、紆余曲折の果てにドイツで職を得たと。二人はドイツの職場の同僚とのこと。二人が曰く、
「今の職場に三年いるけど、まったく給料があがらないし、昇給の可能性がないし絶望的」
「そもそも被雇用者の能力や業績を評価しようという発想がドイツ人にはないし」
「会社側はいくらでも安い賃金で喜んで働く外国人(非ドイツ人)がいると露骨に脅すし」
「私の上司なんか『給料をあげろと要求する前にまともなドイツ語を話せ。ドイツ語の読み書きがきちんとできないのに文句をいうな』としょっちゅう嫌味を言うわ」
「しかもドイツ人のオジサン達のセクハラ、パワハラは日常茶飯事だし。毎日顔をみるだけでムカムカするわ」
「ドイツ人は戦争で負けたけどEUを創ってヒットラーが目論んだ欧州支配を達成したってことよ」
話がEU諸悪根源説に至って小生が「それならEUはないほうが良かったの?」と水を差すと二人とも「EUは必要な制度だしEUにより欧州全体が将来的には良くなると理解している」とのこと。小生が余りにもひどいセクハラやパワハラであれば関係当局に相談するとかアクションを起こす方法を示唆すると二人は少し大人しくなった。二人から逆に今後どうすべきかアドバイスを求められたので私見を披露:
・我慢して現在の職場で働き、まずは安定した収入を確保して蓄財すること
・周囲のドイツ人に自分が有能であり会社に貢献していることを地道に認めさせること
・転職や昇進に有利な資格やスキルを身に付けること
小生としてはあまりにも陳腐なアドバイスであり、二人ががっかりするかと懸念したが案に相違して、「すごく参考になった。今日はお話できてすごく嬉しかったし有益でした。大変有難うございました。」と何度も丁重に感謝され却って恐縮した。
恐らく日本の元サラリーマンの年金生活者という自分たちの世界とは全く無縁で異質の第三者のオジサンに日頃の不平不満鬱憤をぶちまけて延々と対話をするなかで自分たちの問題を客観的に整理できたのではないか。とすればオジサンにも多少の存在価値があるのかなと思った。
時計を見ると午前2時半を過ぎていた。
⇒第4回に続く。
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