彼女はアテネの大学を昨年卒業した土木技師であり親父さんが設計事務所の社長とのこと。やはり【美人で聡明で愛嬌がある】彼女を目の前にして有頂天に。あれやこれやと話題を広げておしゃべりに夢中になり、そのうちに彼女の隣に腰掛けて彼女がパソコンで作成中の高速道路の断面図の技術的説明を聞いたりして小一時間もお邪魔してしまった。
どうも私見であるが、入場料を徴収する博物館とか遺跡とか名所旧跡の類で、コストパフォーマンス的に満足する確率はかなり低いように思われる。私は現役時代には自分は歴史的文化的文物が好きな人間であると自負していた。海外出張でも寸暇を惜しんで丹念に見て回ったものである。
ところが、引退して“自由人”になって気ままに海外放浪するようになってから名所旧跡の類には以前ほど興味がなくなってきた。限られた予算と時間のなかで最大効用、即ち最大の満足感を得ようと厳密に比較衡量する。そうすると単に有名だからという理由で高い入場料を払って名所旧跡を巡ることには慎重とならざるを得ない。それよりも自分のその時の感性や五感が何を求めているかを真摯に受けとめ行動するべきではないか。
結果としては瓦礫のクノッソス宮殿よりは現代に生きるイタリア娘や美人土木技師との楽しい語らいに軍配があがる。
『太陽がいっぱい』欧米中高年のバカンス
クレタ島では中心都市のイラクリオンに数日滞在しただけで、バーリという美しい海沿いの鄙びた村にある比較的長期滞在者向けのアパートホテルに五泊した。ビーチと対岸の山々が一望できるバルコニー付のキングサイズ・ベッドの洒落た部屋でビュッフェ・スタイルの朝食・夕食が付いて、なんと一泊22ユーロと破格。
客層はドイツ・イギリス・オランダなどのEUの勝ち組の中年の勤労者階級の夫婦連れが大半。彼らはプールやビーチでのんびりと一日中日光浴をして雑誌を読んだりビールを飲んだりしている。真っ赤に日焼けした大柄な肥満体が多く、失礼ながらオジサン・オバサンともにトドやアザラシの群れのようである。彼らにとっては太陽とビールさえあれば至福のようである。
あるとき、ホテルの隣のバルコニーで中年のオジサンがビールを飲んでいたので、声をかけたが全く会話が成立せず愕然とした。ありきたりの挨拶、すなわち出身地や旅行日程以上の会話は成立しなかった。
なぜ会話が成立しないのか、それは彼にとり太陽&ビール以外に何も必要がないからだと気が付いた。人は自分の世界に完全に満足しているときは外部世界には興味を示さないものである。