漁船民兵は米国などにとって運用上の問題を提起しており、そのために艦艇や潜水艦、特にドローンなど兵力構造の拡大が必要になっている。中国が漁船民兵と海軍との統合を一層進めるのに伴って、漁船と軍の船舶の間の境界は益々ぼやけてきている、と論じています。
出典:James Kraska,‘China’s Maritime Militia Upends Rules on Naval Warfare’(Diplomat, August 10, 2015 )
http://thediplomat.com/2015/08/chinas-maritime-militia-upends-rules-on-naval-warfare/
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これは、非常に有益な記事です。中国が漁船を海軍の補助部隊として組織化していることの実体と、それが提起する問題点を明らかにしています。国際法は、漁船は攻撃や拿捕から保護されると定めていますが、中国の多くの漁船のように軍事的使命を持つ漁船にどう対処すべきかは、漁船の区別がつけがたいこともあり、軍の運用上大きな制約となっているようです。クラスカは、この問題のため米の兵力構造を見直し、潜水艦やドローンなどの増強が必要になっていると言っています。
中国の漁船は日本にとっても他人事ではありません。2010年9月の尖閣諸島海域における中国漁船の海保船舶への衝突事件や、2012年の香港漁民による尖閣上陸事件を見れば、中国漁船の行為が如何に組織化されたものかが分かります。2014年秋には小笠原諸島海域での中国サンゴ船の大量密漁事件がありました。サンゴ獲得という経済目的は確かにあったのでしょうが、漁船民兵組織の運用試験という側面もあったのではないかと思われます。
中国の行動は非常に厄介です。漁船の利用により、中国が国際法の隙間を突き、漁船と軍艦船の区別を曖昧にすることで、「法律戦」を推進しているのです。中国の法律上の行動と、領土問題の白黒をつけて欲しいと国際海洋裁判所に訴えているフィリピンの法律的な行動は全く異なるものです。また、漁船の軍事戦略への統合は、中国共産主義の戦争観の伝統が色濃く残っていることを示してもいます。
このような中国の漁船には警戒していくことが必要です。海保や自衛隊など、政府においては、中国漁船に対する具体的な対処ルールや国際法の考え方を不断に整理し整備して置く必要があります。また、中国の漁船の行動につき研究することも重要です。更に、我が国を含め中国との協議において、漁船に軍事的使命を与えるべきでないことを継続して提起していくことが重要ではないでしょうか。国際的な規範は守るべきものであり、悪用すべきものではありません。国際的規範は、中国が言うような西洋社会が作ったルールというよりも、いみじくも1900年の米国の最高裁判決が述べるように、「文明国」の一般的な合意によるものだ、ということを中国に主張していかなければなりません。
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