2024年6月18日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年9月7日

 さて、では真相は何なのだろうか。

 もちろん当局から正式な原因が示されていないのだから想像するしかないのだが、私はこの問題の核心は、爆発から4日後に現場に入った李克強首相と、その李首相の眼前にスマホのカメラを突き付けながら質問を発した香港の記者とのやり取りではないかと考えている。

消防隊員の犠牲精神は英雄に価する
一方で、杜撰な薬品管理

 当日の現場では、「編外消防隊員の問題をどう考えているのか?」と唐突に訊ねる記者に対して李首相はこう答えている。

 「消火活動に参加した消防隊員は現役、非現役にかかわらず訓練を受けていた。火災現場の危険性はよく知っていたが、危険な場所に自ら身を置いた。その彼らの犠牲の精神に心が痛む。彼らは英雄であり、英雄に“編外”もなにもない」

 中国語の編外は日本語では「編成外」と訳すべきだが、この場合は非正規の消防隊員を指している。背景にあるのは消防隊員遺族の抗議活動であり、非正規消防隊員の家族たちは補償面で公務員と大きな差が出ることに憤っていたのであった。このことは犠牲者の多くが非正規消防隊員であることも意味していた。

 事故後に公表された情報では、火災現場に投入された消防隊は、天津市公安局の下に置かれた消防隊員約1200人を中心に、河北省滄州、廊坊、唐山の消防隊から駆け付けた増援部隊が加わったとされている。消防隊員たちに化学薬品を消火する十分な知識が備わっていたのかを会見で問われた天津市は、「あった」と答えている。しかし、これは間違いではないが誤魔化しであった。

 実は、最も早く現場に到着したのは天津港公安局が独自に組織した消防隊で、隊員はみな組織上、公安組織の所属ではなかったからである。天津市が「あった」と語ったのは正規の消防隊員のことなのだ。正確には天津港公安局消防支隊第4大隊であるが、天津港公安は天津港という公の組織ではない。天津港集団という企業に近い存在だ。これはかつて企業の中に警察組織や刑務所が備わっていたことの名残だが、要するに警備員の下の消防隊なのだ。

 そして現場で二次災害的に起きた大爆発と最大の被害者と目されるのが、初期段階で消火活動を行った消防隊員だという2つの事実を突き合わせたとき、加害者と被害者が同じであるという政府としては受け入れがたい可能性が浮上してくることが避けられない。

 後には意図的にテレビには映さなくなったのだが、当初、遺族が掲げた消防隊員の写真がみな高校生のように若くて違和感を覚えたが、それだけに余計いたたまれない事故だといえるのだろう。いずれにせよ政府は、不満が出ない程度に情報を更新しながら時間を稼ぎ、本当の利害関係者だけと向き合うことのできる環境を待って問題を解決しようとするのだろう。

 天津爆発の約2カ月前に起きた長江の遊覧船転覆事故への関心がもはやすっかり失われているように、この事故に人々が興味を失うのも時間の問題だと思われたからだ。

 それにしても驚かされたのは、火災発生現場の倉庫に何が置かれていたのか、誰も正確に把握されていなかったという中国の杜撰さである。爆発の翌日から事故調査担当当局は現場にあった薬品の特定を始めたのだが、それは「税関書類と現場採集した物質の分析結果との突合せ」(天津市の会見)という方法で行われるというのだ。つまり、企業が提出した書類だけではどうにもならないのだ。

 当局の迷走は、日々更新される倉庫に置かれた薬品の種類が、たった2日間で20種類も増えたことでも明らかだろう。

  
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