日本や中国に対しても米国の雇用を奪っているなどと口を極めた敵視発言を繰り返し、今月に予定されている中国の習近平国家主席の国賓としての訪米をキャンセルするようホワイトハウスに要求した。
もはや党の害毒
一方で、トランプ氏に同調する動きも
当初はこうしたトランプ氏の人気はすぐにも失速するという見方が大勢だったが、父親と兄が大統領という「ブッシュ王朝」出身のブッシュ氏らが支持率を下げるのを尻目に、各種の世論調査で高い支持率を維持。この事態に共和党の一部は大慌てで“トランプ降ろし”に乗り出し始めた。
共和党が懸念しているのは、トランプ氏の差別的な発言などが党としてのイメージを著しく悪化させ、このままでは本戦で民主党候補に惨敗を喫しかねないからである。米有力紙の調査によると、トランプ氏を「好ましくない」とする人が80%を超え、黒人、ヒスパニック系の有権者で「支持する」とするのは15%しかいない。仮に本戦でクリントン氏との一騎打ちになった場合は大敗するという結果だ。
もう1つ、党が憂慮しているのが他の候補者がトランプ人気に後れを取るまいとして、同氏の主張に同調するような動きを見せていることだ。例えば、黒人の暴動に対する主張は、トランプ氏の白人警察官擁護にクルーズ上院議員やウオーカー・ウイスコンシン州知事らの候補者も賛同するような発言を展開し始めている。
共和党は前回の選挙で、黒人やヒスパニックなど少数派からの支持の取り込みに失敗、この反省に立って今回の選挙では、少数派も重視した政策や主張を前面に出すはずだった。ところが、差別発言や少数派に厳しいトランプ氏の言動がこうした党の政治的思惑を大きく狂わせてしまった。
党の指導部や戦略立案者らの間では、トランプ氏の挑発的な言動がもはや共和党にとって害毒になっているとの見方が急速に強まり、保守派の一部団体は同氏に反対する広告キャンペーンを開始しようとしている。しかし本人は否定しているものの、党内の反発が広がれば、トランプ氏が脱党して第3党を作るというシナリオも現実味を帯びてくる。“トランプ旋風”がこのまま吹きまくるのか、それとも消えてしまうのか、長丁場の大統領選の大きな焦点だ。
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