「深海生物には発光能力をもっているものがいます。この暗い水槽の中ではヒカリキンメダイが泳いでいるんです」
狭いスペースには深海をイメージさせる音楽が流れ、耳を傾けているうちに外の人の気配や話し声が徐々に消えていき、しだいに狭さを忘れ深い海の底にいるような気分になってくる。展示ごとにBGMを工夫するのも石垣のアイデア。
「2階はシーラカンス・ミュージアムで、冷凍2体、剥製3体が展示してあります。世界でもここだけですから。3億5000万年も前から姿形を変えずに生き続け、生きた化石と言われるシーラカンスの冷凍保存体を見て、涙をこぼしていた女性がいました。知識として見るのではなく、深海から何かを感じ取ってもらえたのかも」
水槽に額を付けてのぞき込む子どもや、どこかグロテスクな風貌の生き物に「何これ?ウソ~。でもかわいい」と興味を示す女性たち、実験に驚きの声で反応する人たちを眺める石垣は、とってもうれしそうだ。
漁港の飲食店街で海の幸を堪能した人たちが、目の前の水族館に気が付き、ついでに気軽に立ち寄る。入ってみると、未知の深海にちょっとだけ、でも確かに触れた印象が残る。深海は光が届かないから暗く、水温は低くて冷たい。水圧も高い。それゆえに静寂で頑固なまでに変わらない世界なのだと知る。
世界で唯一の「深海水族館」
「地球上で一番高いのは8,848メートルのエベレスト。一番深いのはマリアナ海溝最深部で1万911メートル。探索は水深1万メートルまで潜水艇で行われていますが、ほとんど未知の領域なんです」