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2015年9月19日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

企業連携の動き

 産業界では電機、自動車など関連する大手企業が、つなぐ技術の標準化などを話し合うコンソーシアムが6月に結成された。「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ」(IVI)と呼ばれる組織は、パナソニック、三菱電機、富士通、日産自動車など約50社が参加、設備や工場間をつなぐ技術の標準化などを話し合う。

 これだけ多くの大企業が同じテーマを話し合うのは異例のことで、経済産業省も支援する。座長役を務める法政大学のデザイン工学部の西岡靖之教授は「日本の製造業は『刷り合わせ』だけの技術では勝ち抜いていけない時代になっている。企業の枠を超えてネットで連携する仕組みを作り、新しいビジネスモデルを作りたい。地方にある工場も新しいモデルを創る場所として生かしたい」と抱負を語る。IVIは7月に第1回目の会合を開催、月1回のペースで開く。

西岡教授

 経産省が応援しながらオールニッポンで製造現場を改革しようというのは初めての試みで、モノづくりでリードしてきた日本が先進国、発展途上国の両方から追い上げられてきている危機感の表れで、モノづくり日本の命運が掛かかっているとも言える。同省はこのほか、製造業をインターネットでつなぐ「IoT(インターネットオブシングス)」を推進するための官民の協議会も立ち上げ、ITを活用した新産業革命への対応を急ぐ。

 その場合に課題が残る。異なる企業の設備をつなぐ際に、果たして企業がどこまでITに関する情報を公開、共有できるかだ。「つながる」部分では各企業がノウハウとして蓄積した部分が多いため、企業秘密にかかわるものもある。コンソーシアムや協議会が、企業秘密の壁を越えてどこまで実の挙がるものになるか、注目される。

先行するドイツ、米国

 世界中の生産ラインが一体化する「インダストリー4.0」を実現化するためには、国境を越えてマシンを標準化させる必要がある。そうしておけば、製品のデザインやモデルの変更があっても短時間で容易に対応ができる。これからの時代は多品種・少量生産が要求されるため、変化に対するスピードの速さが企業の生き残りを左右する。

 ドイツでは世界に先駆けてこの標準化を積極的に進めようとしている。中国で大きな自動車シェアを持つフォルクスワーゲンやベンツは、中国での現地生産にも「インダストリー4.0」を導入しようとしている。そうなると中国で自動車生産をしている日系自動車メーカーも、ドイツが中国メーカーとの間で取り決めた影響を受けることになる。過去に日本は電気製品の標準化で遅れを取ったため、苦い目に合った記憶がある。標準化は早い者勝ちという面があるため、世界標準を決める際にはその決める組織に日本人メンバーが入っていないと、取り残されてしまう。

 米国では14年にGEやIBMなどが参加したインダストリー・インターネット・コンソーシアム(IIC)が立ち上がり、企業の枠を超えてビッグデータなどを共有して新しい製品・サービスを開発しようという動きが起きている。今春に来日したGEの責任者は「GEが開発したビッグデータ解析を活用すれば、コストを削減できて新たなサービスに役立つ」とPRして主要企業に大キャンペーンを行った。

 すでに200社近い企業がGEの呼び掛けに応じているといわれ、GEと昨年4月に戦略的業務提携したソフトバンクは、企業向け「IoT」ソリューションのM2M(マン・ツー・マシン)分野での事業を進めるため、GEが開発した予測分析ソフトウエア「プレディクス」を使って開発作業を行っており、住宅設備機器大手のLIXIL(リクシル)がこのソリューションを導入予定であることを公表している。GEは大手企業だけでなく独自で精密な技術を持っている日本の中小企業にも着目、いくつかの中小企業がGEの解析技術を導入しようとしているという。

見劣りするIT人材

 経産省が出した2015年版の「ものづくり白書」では「インダストリー4.0」の事例をいくつも紹介している。この「新産業革命」を担うのがIT人材だ。だが「白書」によれば、日本のIT技術者は100万人程度で、米国の3分の1、中国と比較しても半分程度しかいない。しかも日本の場合は多くの技術者がIT企業に在籍しているため使う側での視点が不足しており、ITを製品やサービスの開発に使おうという発想は育っていない。

 このため、日本は大学など教育機関を動員してIT技術者の育成を急ぐとともに、単にITだけでなくモノづくりの分かったIT技術者を養成すべきだ。そうすることで、米国や中国よりレベルの高いモノづくりIT技術者を輩出でき、ITを活用した新しい産業の現場を担える強いマンパワーになる。

 大手メーカーでは、パナソニックやコマツなどでモノづくりIT技術者が製造現場に配置されており、ビッグデータを使って効率的な生産が行われてきている。彼らはモノづくりの国家資格を持った上に、IT技術も備わっているため、機械の故障を少なくして製品の歩留まりを高めることができる。

 また中小企業の製造現場にも3DプリンターというITを使って複雑な製品を簡単にできる機械が導入されようとしている。このプリンターを自由自在に動かすためにはIT技術が必要になる。中小企業もITの最新技術を積極的に取り入れるために、IT技術者を早急に養成すべきだ。このIT産業革命はスピードが速い。モノづくり企業は、規模に関係なくIT技術の習得なくしては会社の発展にはつながらない。さらにはこうした先進的なシステムに対するサイバー攻撃が日常茶飯事になりつつあることから、セキュリティ関連のIT技術者の養成も急務になっている。

  
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