ウクライナの敵をシリアで返す
こうした米国のシリア政策の混乱を尻目に、ロシアのプーチン大統領は9月初めからシリアへの軍事支援強化、ロシア軍のプレゼンスの増強に乗り出した。
地中海沿いのシリア西部ラタキア近郊の飛行場に戦車など膨大な軍事物資と海兵隊員200人など兵員を送り込んだ。大型輸送機による空輸は20回以上に及んだ。さらにここ数日のうちにSU27戦闘機4機、武装ヘリ4機、輸送ヘリなども配備された。
米国はこうしたロシアの動きが内戦を激化させるものとして非難したが、プーチン大統領は全く無視。それどころか、アサド政権に対する軍事支援を続行することを強調、ISと戦うためロシアに合流するよう各国に呼び掛け、米主導の有志連合に挑戦する姿勢さえ見せた。
ロシアがアサド政権を支援してISに対する空爆に踏み切るようなことがあれば、有志連合軍機と偶発的な衝突に発展しかねない。このため米国のカーター国防長官とロシアのショイグ国防相が急きょ会談したが、逆にロシアのシリアでの軍事力増強を事実上“追認”する形になった。
プーチン大統領はなぜ今、シリアで軍事力増強に踏み切ったのか。いくつか理由があるが、最大の動機は「ウクライナでの敵(かたき)をシリアで返す」という国際政治の駆け引きだ。ロシアはクリミア併合、ウクライナの親ロシア勢力支援などで、西側から経済制裁を受け、主要な輸出品である原油価格の低迷もあって苦境に立たされている。
西側諸国は現在、欧州へのシリア難民の流入で危機に陥っており、プーチン大統領としては、この機会にシリアにおけるプレゼンスを拡大し、危機の解決の主導権の一端を握ることで、ウクライナ問題での出口を見出したいという狙いだろう。この他、無論、内戦解決のためアサド政権に代わる新政府の発足の機会がめぐってくれば、その拡大した影響力を行使するという思惑もある。
プーチン大統領は28日に予定されている国連総会での演説で、世界の耳目を「ウクライナからシリア」に向ける一方、冷え切っているオバマ大統領との首脳会談の実現を要望している。しかしホワイトハウスは会談に応じるべきかどうかで二分している。
会談拒否派は、会談すれば、ウクライナの暴挙に報償を与えることになると反対しているが、両首脳は互いに「オバマ大統領を“弱虫”、プーチン大統領を“悪党”と見なしている」(米紙)とされ、国連総会の場が2人のしのぎを削る舞台になるのは間違いない。
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