2024年4月20日(土)

対談

2015年9月27日


久松 僕は最近あちこちで言っているんだけど、これからの日本はみんなで、惨めで小さな部分を拾い集めてやっていくしかない国なんですよ。でもそれこそがすごくクリエイティブだと思うんですよね。年率10%で成長していた時期は、そういう細かいところを詰めていかなくても、荒っぽいやり方で全然やっていけた。そのおかげで生産性を1ポイント上げる余地なんてそこら中に手付かずで転がっている。そこに目が向くようになったことはとてもいいことだし、良い時代だとも思うんですよ。

木下 僕がラッキーだったのは、初めて関わった早稲田商店街がすごく小さくて貧乏で(笑)、そもそも補助金で何かをやるという発想すらなかったことですね。だからこそ、他とは違うことができた。補助金でイベントを打つのが当たり前という商店街に入っていたら、今みたいな仕事をしていることもおそらくなかったでしょう。

 『稼ぐまちが地方を変える』にも書きましたけど、高校一年で入って卒業するまでの間は早稲田商店街が快進撃を続けた時期で、そこにライブで立ち会えたんですよね。自分の世界観がどんどん広がっていきましたし、「ああ、こんな小さな町で話し合っている小さなこと、自分たちで考えてやり始めたことが、日本だけでなく海外からも注目されるんだ」という手応えがすごくあった。予算のなさを知恵とネットワークで乗り越えていたから、補助金なんてまったく関係なかったんです。

 自分たちの企画でやったのが、大豆のトラスト運動でした。北関東の大豆農家と連携して、お客さんが畑の一区画に出資して、できた豆は商店街の豆腐屋さんで豆腐にしてもらえるという仕組みでした。それが事業としてそれなりに回り始めたら「ニューヨーク・タイムズ」まで取材に来たんです。ひとつひとつのプロジェクトが評価されていくことを実感できたのは大きかったですね。
でも、やはり本にも書きましたが、早稲田商店街が国のモデル地区になって隣接商店街との共同事業に予算が下りるようになったあたりから、「予算を使って何をするか」というマインドになってしまいました。協力者やキーパーソンがどんどん離れていって、取り組みのモデルが続かなくなった。予算がないときのほうが知恵を絞って楽しいことができたんです。

 いまは「地域おこし協力隊」をはじめ、地域に関わる様々な制度ができました。でもそういう支援制度があるからといって、地域で活躍する人が増えるとは限らないと思うんですよね。

久松 農業と同じ話だねえ……。『小さくて強い農業をつくる』にも書いたことで、農家になろうとしていた頃の自分なら、今の新規就農支援制度を使わないだろうなって気がするんですよね。めぐりめぐって、今は僕自身が制度を作る側のお手伝いをすることもあるんだけど、やればやるほどそう思える。善意で作られた制度ではあるんだけど、あまりにも至れり尽くせりで、農業をやりたいと思った初期衝動からどんどん遠ざかってしまいそうな気がしてしまうんですよね。僕はたまたま生き残ったからいいけど、これから入ってくる世代のモチベーションを曲げずに支援するにはどうしたらいいのかっていうのは、最近のテーマなんですよね。うまくいくもいかないも偶然頼み、というのじゃあちょっとね。

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