2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月1日

 難民危機は人道問題を超えた問題である。より大きな問題は、必要な時には軍事力を使ってでも、世界の秩序を維持することから逃げていることにある。これに失敗すると、西側の理想が国の内外で段々と妥協を強いられることになることを、今回の難民危機は示している、と述べています。

出 典:Wall Street Journal ‘The West’s Refugee Crisis’(September 6, 2015)
http://www.wsj.com/articles/the-wests-refugee-crisis-1441561678

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 上記は、熱のこもった論評で、国際秩序を守る責任を果たすことを止めたオバマ大統領と、責任の真空を埋めることをしない欧州を批判するものです。議論は、欧州の経済、防衛支出削減の問題にまで及びます。多くの点が正論でしょう。特に、①難民問題の根源はシリア、そしてイラク問題にあること、②シリアの初動政策を誤ったこと、③オバマの政策のために今や世界の秩序を誰が守るのかが分からなくなっていることなどの点です。

 それにしても、1枚の映像の力は大きいものです。1976年の南アフリカのソウェト蜂起の際の1枚の写真が世界を動かしたことを思い出します。黒人少年がデモ中にアパルトヘイト警察に射殺された少年ヘクター・ピーターソンを抱えて走る写真です。1990年代初め、日本は安保理の非常任理事国でしたが、安保理は良くも悪くもCNNの映像に大きく反応する毎日でした。CNN効果と言われました。指導者は、映像に敏感に反応しつつも冷静な政策判断を行わなければなりません。難しい時代です。

 今取るべき対シリア具体策について、上記社説は明確に論じていませんが、オバマが介入をしなかったことを批判しているので、おそらく初期段階で軍事介入をすべきだったという見解なのでしょう。しかし、あれから5年、事態は一層複雑化しています。9月5日、ケリー米国務長官はロシアのラブロフ外相に対して、ロシア戦闘機のシリア移動等に関する報道について強い警告を伝えたそうです。シリア、イラクについては、当面は、IS対策を第一に考え、人道問題に手を打ちながら、政治解決を模索する以外に方法はないように思えます。同時にオバマはイラクに残している支援部隊を増強する必要があるのではないでしょうか。なお、目下の問題について、米欧が批判合戦になる気配も見えます。それはあまり生産的でありません。

 欧州の危機はアジアのことも思い出させます。アジアでの最初の難民問題は1970年代のインドシナ難民です。日本でも大きな問題となりました。目下はロヒンギャ難民が問題となっています。日本の難民対策については受け入れ数が少ない等種々問題が指摘されています。国際責任の観点からも良く検討しておくべき問題です。

  
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