2024年12月9日(月)

コラムの時代の愛−辺境の声−

2015年9月10日

 ギリシャの債務危機が先延ばしとなったのもつかの間、欧州に第二次大戦後、最大となりそうな難民流入が起きている。内戦下のシリアやイラクから欧州を目指す人々が8月、一気に数を増し、ギリシャなど緩い「南」の玄関口から、リッチな「北」、ドイツや英国を目指している。

 ギリシャ危機と同じく、解決の鍵を握るのはやはり大国ドイツのメルケル首相だが、今回は大盤振る舞い、年末までに80万人の難民を受け入れると宣言した。ドイツ人口の1%に当たる数字である。日本にたとえれば、青森か岩手、大分などの県民人口が数カ月で一気に増える計算だ。

9月5日、独ミュンヘンに到着したシリア難民の男性。メルケル首相の写真を掲げ、喜びを示す(Getty Images)

難民を装って海を渡る移民が増えるのは間違いない

 「難民問題でもし失敗すれば、欧州はもはや、我々が望む欧州ではない」と8月31日にうたい上げたメルケルさんは拍手喝采もの。やや古いたとえだが「おいでませ、山口へ(山口県の観光キャッチフレーズhttp://www.oidemase.or.jp/)」ならぬ「おいでませ、ドイツへ」と重い扉を開き、両腕を広げた歴史的瞬間ともとれる。

 今後の難民の増減は表向きには、シリアやイラクの情勢次第と言えるが、とにかく欧州に渡りたい人々は本来、とても賢い。メルケルさんの宣言を機に、難民を装って海を渡る移民が増えるのは間違いない。少子化とは無縁で、依然多産の中東、アフリカからどんどん人が来る。メルケルさんはじめ欧州連合(EU)は、「移民との共存」という古くて新しい問題にどう立ち向かうのか。

 今逃げてきている人々は脇に置いたとしても、要は、迎え入れる80万人の果たして何人が本当の「政治難民」なのか。あるいは何割がシリア人なのか、という問題だ。

 今回は移民の玄関口をみてみる。

 欧州連合(EU)は外交や移民政策などの権限、つまり、EU全体で決めた政策をより効果的にするための基本法、リスボン条約を2009年12月1日に発効した。移民については、加盟26カ国(当時)でバラバラだった対策を統一し、より門戸を厳しくしようという話が、そのころ、EU官僚たちから流れていた。

 「これからはEUが全体で一律管理するので、違法移民の流入を抑えることができる。欧州の外からのヒトの動きを全て管理する」。そんなニュースが、当時私が暮らしていたイタリアにも伝わり、移民受け入れがかなり厳しくなるという話だった。

 だが、実際問題、管理などできるのか。私はその年末、中東、アフリカからの移民(難民も含む。以下同じ)の玄関口、ギリシャのヒオス島に「国境管理」の実態を見に行くことにした。

トルコと接するヒオス(Hios)島(Getty Images)
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 島の東海岸からトルコの沿岸までは最短距離で7キロ。目と鼻の先だが、移民たちは密入国を請け負うトルコ人業者に2万ユーロも払って、船外機付きボートや手漕ぎボートで島に渡ってくる。

 一応、ギリシャの港湾警察が警戒しているが、拘束は織り込み済みで、この辺りがメキシコから米国に向かう越境者とは違う。米国と違って、彼らの多くは「政治難民」と認定され、その場で追い返されることがまずないからだ。

 ヒオス市の難民担当の女性係官(当時35歳)によると、海上で密航船を見つけた警察官が「トルコに戻れ」と言っても、彼らはその場で船を壊し、救助されるのを待つため、どうしたって追い返すことはできないという。


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