都心に建つ2階建ての一軒家が、小野塚さんのシェアハウスだ。
築年数は50年。
入ってすぐが廊下になっていて、左側に彼の部屋と居間、右側に階段とトイレとお風呂がある。
住人は男女混合で、20代から30代の全員が社会人。それぞれに個室があり、居間やキッチンやお風呂などは共有する。
一通り、部屋を案内してもらったところで、居間にしているという和室に落ち着いた。
きっかけは”退職”
平日の午後3時。
ほかの住民たちは仕事に出ていて、一軒家にいるのは私たちだけだ。
庭に面したキッチンからは、ガラス戸を通して初夏の日差しがほどよく差し込んでいて、正座している小野塚さんの顔を照らし出している。
「シェアハウスに住み始めたのは、会社を辞めたからですね」
きっちりとした襟付きのシャツに、きちんとしたチノパンを穿いて、彼は静かに口を開いた。
「大学時代は、自分のやりたい内容を学術的に学べる学部で勉強していたのですが、就職したのはIT。なじめなくて3年で辞めました」
家賃対策と公共スペースの確保
辞めて困ったのが、毎月の家賃。会社員時代はそれなりのお給料をもらっていたので、都心にある8万円のマンションに住んでいた。しかし、退職後の収入はバイトの15万程度。しかも、作業するためにカフェに毎日通っていたので、それも結構な額になり、貯金は目減りしていった。
「本来ならば、カフェに通うどころではなかったのでしょうが、自分は人目のあるところでないと仕事ができないんですね。そこで、考えた末に、『人目があればいいのなら、自宅に他人を呼び込めばいい……なら、シェアハウスがいいんじゃないか』とそのときに思いついたんです」
既存の物件に入るのではなく、自分で一軒家を借りて、人を募集するスタイルを考えた。住人同士の“距離感”を自分で決めたかったからである。