2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2015年9月30日

 バグダッドから100キロしか離れていない西部アンバル州の州都ラマディが5月、ISに占領されると、米国は対戦車ミサイル1000基を急きょ送るなど協力。アバディ首相が権力の座に就いたのも、米国が強力に後押ししたおかげ、という認識がオバマ政権には強い。

 しかしイラク側には、米国の支援のスピードが遅く、また空爆も住民の巻き添えを恐れるあまり、手加減しすぎという不満が根強い。背景には、アバディ首相が権力を掌握仕切っておらず、マリキ前首相らが絶えず横やりを入れているという現実もある。

 ロシアがイラクにも手を出している兆候はあった。米国はロシアがシリアへの軍備強化を始めたのに対し、同盟国にロシア機の領空通過を認めないよう圧力を掛け、ブルガリアはこの要請を入れてロシア機に領空を封鎖した。

 しかしイラク政府は米国の要請を無視し、ロシア機の領空通過を容認し続けている。またバグダッドではロシア軍将校団の姿が頻繁に目撃されており、イラク側と密接に打ち合わせをしていたことが伺われる。イラクに大きな影響力を持つイラン革命防衛隊「コッズ部隊」の司令官、スレイマニ将軍が最近、モスクワ訪問していたのも、今回の一連の決定に関係したものだろう。

アサド政権めぐり攻防

 米国は「統合情報センター」にシリアが参加することに強く反対、アサド政権の弾圧によって過激派が台頭したとし、アサド大統領が退陣しない限り、シリア危機の解決はない、と主張。対してロシアの見解は、アサド政権こそISの拡大を阻止する防波堤であり、同政権なくしてシリア危機の解決はない、というものだ。オバマ、プーチン両大統領は28日国連で首脳会談に臨んだが、双方ともこれまでの持論を展開し、平行線に終わった。

 ロシアのシリアへの軍事力展開は、大方が当初想定して以上の規模に拡大している。これまでSU24、25など最新戦闘機28機、武装ヘリ、戦車などの兵器に加え、海兵隊約500人もシリア西部地中海沿岸のラタキア近郊の空軍基地に配備され、すでに無人機が偵察飛行を開始した。

 ISも最近「外国人戦闘員が3万人にまで急増」(米紙)という驚くべき回復力を見せ、徹底抗戦の構えを崩していない。ロシアが仮に直接戦闘に参戦すれば、ISだけではなく、アサド政権に敵対する反体制勢力との交戦に発展する危険性も強い。シリアがロシアにとって手痛い敗北を喫した「第2のアフガニスタン」になる懸念はないのか、プーチン大統領にとっても大きな賭けだ。

  
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