2024年4月20日(土)

ASEANスタートアップ最前線

2015年10月16日

佐野尚志さん ソニーにて複数のジョイントベンチャー設立や投資プロジェクト、エナジー事業の海外事業開発に従事したのちに独立系VCであるグローバル・ブレインへ参画。同社シンガポールオフィス設立を行い、東南アジア、オセアニア、インドをカバーするリージョナルマネージャーとして投資・育成活動を行う

宮崎 人材・タレントという観点からはどう思いますか?

中村 私は、東南アジアは、日本と異なり、スタートアップもインベスターも、皆グローバルタレントだな、って感じます。そして、国籍が多様ですよね。アメリカはもちろん、ヨーロッパ、オーストラリア、インド、日本、世界中から東南アジアに移住して活動しています。

佐野 日本は投資家もスタートアップも日本人、というのが多い気がしますね。こちらでは国籍は関係なく、ぐちゃぐちゃしてる。

中村 成長機会が多い故に、先行するマーケットでのノウハウを元にしたタイムマシン経営を狙って国外からやってくる人たちが多いから、なのかもしれません。

佐野 でも、単純なコピーだけではうまくいかないよね。ローカライズの徹底、そしてスケールさせるためには面をとりにいくことが必要不可欠。インドネシアを除くと、一カ国の規模は大きくない。日本で、日本だけに閉じたビジネスをしていた方がよっぽど十分なマーケット規模がある。しかし、東南アジアでは違う。シンガポールは550万人、マレーシアは3000万人ですからね。必然的にエリアの展開が重要になってきます。

地域やセクターによって魅力が異なる
ASEAN各国のスタートアップ

宮崎 多様性あふれるASEANですが、お気に入りの国とかありますか? 特にソーシングしたい国、みたいな。

中村 私は、投資家という視点から見るとマレーシアですね。過去の実績を見ても、マレーシアから今も昔も企業価値が大きくなったスタートアップが産まれています。GrabTaxi、iProperty、PropertyGuru……。マレーシア市場は小さいので、元々地域展開を志向しているスタートアップは多いように思います。また、マレーシア市場は域内の他国市場よりやや成熟しているので、マレーシアで成功したモデルを他市場に持っていくタイムマシン経営も展開し易いのかもしれない。その上、バリュエーションも地に足が着いた水準だという印象がありますね。

佐野 面白いですね。自分はシンガポールが好きです。シンガポール政府がASEANのリーダーとして国を引っ張り、地域を引っ張り、スタートアップを引っ張っていると感じます。

宮崎 なるほど。私もマレーシアが好きですが、前職電通では金融クライアントを数多く担当していたため、金融スタートアップが多いフィリピンが好きです。知ってます? フィリピンって、人口の8割が生涯に一回は質屋使うんですよ(笑)。給料をもらったら、通貨の信用が無いからすぐに金のアクセサリーに変えて、肌身離さず身に着けている。でも、キャッシュが欲しくなった時は質に入れる。資金需要が発生しやすい国なんです。

佐野 面白いですね。

宮崎 セクターという観点から見るとどうですか?

中村 SME(中小企業)向けのサービスに注目しています。例えばマレーシアでは、小売業に占めるSME比率が全体の99%を占めるなど、大企業のコントロールが比較的弱い構造を踏まえたサービスには成長余地があると思っています。彼らを対象にしたITサービス、たとえばPOS(Point Of Service)とかって非常に興味があります。

佐野 実は僕も同じ視点で、SME向けのサービスって面白いと思っています。まだまだこっちって、色々な分野でのインフラが整っていないじゃないですか。日本で解決しなきゃいけない深刻な課題って、そう簡単に見つからないですよね。マイナーな課題か日本独自の文脈での課題しか残っていないような。でも東南アジアではクリティカルで基礎的な課題が見つかりやすい。

宮崎 わかります。投資業って、金融ですから、なんというか、経済開発的な意味を持つと思うんですよね。ソーシャルインパクトという言葉がいいのかわからないのですが、VCという活動を通して、東南アジア経済を活性化させていると感じることはできますよね。

中村 そうですね。

宮崎 本日はどうもありがとうございました!これからも現地日本人VCとして、よろしくお願いします。

中村・佐野 ありがとうございました!よろしくお願いします。

 スタートアップも熱いが、ベンチャーキャピタリストという投資家サイドも、より良いスタートアップに投資すべく、日々鎬を削っている。しかし、その実態は、競争的、というより協調的だ。複数の観点から企業を評価し、みんなが利益を産みだせるように努力している。会話にも出たが、ASEANでは、スタートアップのみならず、投資家サイドの国籍も多様だ。果たして、数年後にはどんな世界が待ち構えているのか。楽しみで夜も眠れない。

※本連載では、シンガポールを拠点に、東南アジア全域で活動するベンチャーキャピタル、IMJ Investment Partnersの現地取材を通して、ASEANスタートアップの最新情報をお届けしております。本連載、並びにIMJ Investment Partnersへのお問い合わせはこちらからお願いします。

  
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