縁辺諸国は、敵の浸透・侵攻に対する市民レベルでの抵抗能力も高めるべきである。
こうすることによって、NATO側は、サラミ戦術のコストがロシアにとって高くつくように仕向ける。反撃用兵力を分散配置するとか、兵器を隠して配置しておくとか、秘密の兵站網を整備する。小型ミサイル、精密誘導砲を備えたトラック移動の「近代的なゲリラ兵力は、非常に有効な手段となる。これまで西側は、敵の攻撃に対して上から目線で「罰」を与えることで抑止しようとしてきたが、これからは敵の作戦を長引かせることで抑止する方向に変えて行かねばならない。
黒海はロシアのA2/AD能力でカバーされた湖のようになりつつあるが、ルーマニアも自身のA2/AD能力を高める必要がある。防空能力、海岸防備能力、そして対戦車兵器、地雷を整備する他、市民防衛体制も整える必要がある。長期的には、沿岸作戦用潜水艦部隊を持ってもいいかもしれない、と述べています。
出 典:Jim Thomas & Octavian Manea ‘Protraction: A 21st Century Flavor of Deterrence’(Small Wars Journal, September 11, 2015)
http://smallwarsjournal.com/jrnl/art/protraction-a-21st-century-flavor-of-deterrence
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旧ソ連圏諸国はロシアを怖がり、NATOの庇護を求めます。するとロシアは対抗措置を取り、また今度はNATO側がそれに対抗します。果てしない悪循環は対立を嵩じさせますが、日本がどうこう言う筋合いのものではありません。
バルト諸国、旧東欧諸国の防衛能力強化においては、NATO全体よりも、米国が二国間ベースで対応する例が増えています。つまり、欧州方面においてもアジアと同様、米国を扇の要としたhub&spokesの体制が形成されつつあります。ここにおいては、ドイツが対露、対米関係を如何にもっていくかが鍵となりつつあります。
日本、アジアにとって意味があるのは、中露のA2/AD能力向上により、中露の周辺では「絶対的優位に立っているはずの米軍」を使用できない状況が出てきているということです。
上記インタビューでは、西側が「近代的ゲリラ兵力」を整備することが提唱されていますが、その場合、米軍自身がその兵力を提供するのでないと、米国のコミットメントは相対化します。
上記インタビューでは、当然のことながら、小笠原列島周辺での中国漁船の行動、南シナ海における中国軍の行動のような「海におけるサラミ戦術」は議論されていません。日本はこれも含め、南西諸島の防衛等、対策を米国とともに練っていくことが求められています。
日本が今、米国と調整しなければならないのは、中露のサラミ戦術への対応だけではありません。核の傘、中露海軍協力への対応、オホーツク海での活動調整などもあります。
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