月刊誌Wedge連載「名門校、未来への学び」では、毎月名門校の魅力を発信しています。2月号では、滋賀県の彦根東高校新聞部の活躍を取り上げました。ここでは、毎回OBに思い出や今につながるエッセンスを語ってもらっており、先日は同校OBの有名人・田原総一朗さんのインタビューを掲載しました。
今回は、結成6年目のお笑いコンビ「アキナ」のボケ担当・山名文和さんに登場いただきます。コントの日本一を決める「キングオブコント」では3度決勝進出しているほか、15年にNHK上方漫才コンテストで優勝、17年のNHK新人お笑い大賞も受賞しており、いまや若手お笑い界を引っ張るコンビとして大活躍中。また相方の秋山賢太さんは、先日入籍を発表して話題になりました。
現在お笑い界では、オリエンタルラジオの中田敦彦さんやロザンの宇治原史規さんなど、「高学歴芸人」と呼ばれる方々が多く活躍しています。当然大学だけでなく、高校もいわゆる「名門校」に通っていた芸人さんは多くいらっしゃいます。彦根東高校卒業のアキナ・山名さんもその一人。
ということで、さっそく当時の「秀才エピソード」をお伺いしようとしたところ……。首を横に振って「僕を高学歴芸人でくくるのはやめてください!!」と恐縮しっぱなし。「僕は落ちこぼれなんです……」と苦笑いを浮かべました。
中学校時代の成績はいつも学年トップ10に入っていたといいます。暗記が得意で、「時間さえかければだいたい覚えられた。テスト勉強も高校入試も簡単にクリアできてました」。しかし、高校に入学すると、それが井の中の蛙だったことを思い知ります。
「衝撃でしたね。数学の時間に、先生の話に頷いていたクラスメイトが、急に何か思いついた顔でジーニアス(英和辞書)開いて、何か単語を探し始めたんですよんですよ。いや、何があったんや、今数学の時間やろ、って思って(笑)。1つのことに集中しながら、ひらめけば全然違うことも意識しながらできるっていう、もう頭の構造が違うんでしょうね。テストの日も、開始前にみんなが問題を出し合うじゃないですか。でも教科書のどこに書いてあったかって話をしないんですよ。『それ先々週の授業で習ったよな。ちょうど雨降ってた午後の授業やわ』みたいなね。できる人は風景で覚えるって言いますけど、ほんまですよ、あれ」。
そんな同級生の存在にすっかり委縮してしまった山名さんは、いつしか勉強に向かうのを避けるようになります。「逃げてました。で、バスケ部だけが僕の居場所だった。まあ、ずっと控えでしたけど(笑)」。それでも入部当時、先輩から応援団長に指名されたとか。いまでも、コントなど低音の通る声が特徴的ですが、それが買われたのでしょうか。
「そうかもしれませんね。でも、当時は敵チームを『倒せ!』っていう応援をするのが伝統だったんで、僕も一生懸命やったんですよ。そしたら監督に『そんな暴言吐くな!』ってめちゃくちゃ叱られましてね。めっちゃ理不尽でしょ、これまでずっと伝統でやってたはずやのに。すぐ団長おろされました(笑)」。それでも朝練もサボらず参加し、部活の仲間と会うことだけが楽しみになっていました。
普段の学校生活は相変わらずで、周囲の勉強ができる同級生たちと比較し、「自分は将来何になるんだろう」とずっと悩んでいたそうです。「周りは賢いやつばかり。『東大も行けるけど、近いから京大行くわ』みたいなやつばっかで。自分はしたいこともないのに、なんで勉強せなかんのやろって。授業さぼってました」。そして高校3年生の夏、ついに山名さんは母親に退学したいと伝えます。
「そしたら母がすごい泣いてね。せめて卒業だけはしてほしいって。ほんまに言ったらあかんこと言ってしまったんやな、申し訳ないことしたなあって」。それから、勉強の中では比較的好きだった英語と国語を必死に取り組むようになり、名古屋外大へ進学することになりました。