2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月26日

 元米国防次官補代理で、2005-06年の国防計画(QDR、4年ごとに見直し)の策定を主宰したJim Thomasが、ルーマニアの研究所所員のインタビューに答え、ロシアが限定的・非正規の軍事力を用いてNATOの縁辺諸国を脅かすようになっていることについて、いかに西側が対抗すべきかを述べています。

iStockより

 すなわち、冷戦での西側の勝利は、次の要因による。

 ①ソ連は、米欧の団結を割ることができなかった。特に西欧が団結して中距離ミサイルを配備したことが大きい。

 ②レーガンの国防予算増強にソ連が対抗できなかった。

 ③西側が、Air Land Battle等、新しい戦術を開発した。

 ④米国はAir Land Battle戦術を可能とするため、DARPA(国防高等研究計画局)を活用して技術開発をした。これにより精密誘導兵器、ステルス技術、データ・リンクによる米軍の統合指揮能力の飛躍的向上等、絶対的優位を築くに至った。

NATO加盟国を悩ませるA2/AD戦

 冷戦終結後、NATOはロシアと基本関係文書に調印し、NATO新規加盟国には核兵器を展開しないこと、新規加盟国の有事には緊急展開兵力の派遣で対処することにした。

 しかし現在のロシアは、空・海双方で敵の接近を撥ね付けるA2/AD(=Anti-Access/Area-Denial)において優れた能力を備えている。戦術核兵器も、A2/AD戦で用いることを明らかにしている。これは、NATOが新規加盟国に緊急展開兵力を派遣することを困難にさせる。さらにロシアは、非正規兵力の使用に長けている。

 ロシアはA2/AD能力でNATOを抑止し、一方で非正規兵力を駆使してクリミアを併合する等、一枚一枚“サラミ・ソーセージを切り取っていくような戦術”を開発したのである。

 同様の戦術は、アジアでも用いられている。漁民、あるいは市民の抗議活動が利用されることもある。

 NATOの縁辺諸国も、自身のロシアに対するA2/AD能力を高めるべきだろう。更に核兵器も含めて、米国・NATO諸国の兵力を縁辺諸国に常駐させることも考えるべきだろう。


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