一方、内部留保の積み上げなどで日本企業に十分な財務体力が備わってきたことも事実である。それは、日本企業の自己資本比率の高さからも見ることができる。日本企業の多くは、過小資本とその裏返しとしての過大負債に長年直面してきたが、今やその自己資本比率は欧米企業並みとなってきた(図表7)。
特に、今年になってからの自己資本比率は、企業規模を問わず戦後の統計開始(1954年度)以降で最高水準となっている。特に、大企業では45%を超え、欧米大企業に勝るとも劣らない水準に達している。
しかも、国内市場が成熟していることや世界経済の成長鈍化があるとは言え、もっと投資や雇用を拡大すべき分野や理由もある。その一つが無形資産投資である。日本のソフトウェアなど無形資産投資のGDP比はアメリカより小さいが、ビッグデータ、IoT、インダストリー4.0、AI社会への対応が急がれる中で、きめ細かく収集した情報を高度に解析して新たな知見を見出すためなどのソフト投資がますます重要となっていることは言うまでもない。
雇用も同様である。現在の人手不足に少子高齢化が作用しているだけに、今後も安く人材を確保できるとの考え方は成り立たなくなりつつある。しかも、実質合意に至ったTPPがこれから一層グローバルな競争をもたらすことを勘案すれば、さらなる省力化と生産性向上の投資、そして人材の育成と高度化が必要不可欠となっている。
ちなみに、アメリカ企業では、設備投資、人件費や株主還元の増加以上に利益が大きく増加した場合、企業買収に打って出ることが多い。そして、今年の企業買収は過去最高ペースとなっている。日本でも、潤沢な収益を背景に海外での企業買収などが増加しているが、企業買収は増産を伴わない投資形態であるだけに、内外でさらに活用する余地がある。
新局面への備えが勝機を生む
成熟市場でビジネスを大きく拡大させることは容易ではなく、内外経済の先行きに不透明感が強く、先々の需要も見通しにくいとなればなおさらである。
しかし、日本企業にとって大きな後押し材料がいくつもあり、今が差別化を図る絶好の機会ともなっている。過去最高の企業収益と自己資本比率、主要国中最低の労働分配率、一層高まる省力化・無形資産投資ニーズ、などである。さらに、2020年には東京オリンピック・パラリンピックもある。
TPPも大きな後押し材料である。来たるべき輸出機会の拡大、輸入や外資系企業参入増に伴う競争激化や関税率引き下げによる消費者購買力増加などを見据えて、今から準備することがTPP本番となった時の競争力に直結する。
いくら財務体力がついたとは言え、足元の内外経済状況はビジネス展開に最適とは言えまい。しかし、新たな局面への対応を怠るわけにはいかない。投資を要請する官民対話は企業にとって困惑材料ではあるかもしれないが、これに反応して慎重でありつつも次のビジネス展開の準備を怠らないことが勝機を掴む大きな要因となる。
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