私はすっかり乗りなれたハーツ・レンタカーの日産セントラに乗り、目の前のエル・カミーノ・リアルからサンアントニオ・ロードを通ってフリーウェイ101号を北上しサンフランシスコ空港に向かった。前日インフォミックスでもう一人のボブ、ボブ・コーチェに「マイレージプラスを知っているか?」と言われ予約をユナイテッド航空に変えていた。まだ日本には無くアメリカでも始まったばかりのプログラムだ。その後親交を暖める事になる彼に「テツはこれから出張が増えるだろうし、太平洋線に乗るのだからマイルを貯めなきゃ損だよ」と教えられ、その後レンタカーでもホテルでも熱心なマイラーとなる。サンフランシスコ空港を飛び立つと眼下にフォスター・シティの街並みが眩しく、イヤフォンからはチャカ・カーンのスルー・ザ・ファイアが流れていた。
小さなビルにあったマイクロソフト
シアトル・タコマ空港に着くとまずレンタカーを探した。ハーツ、エイビス、ダラー、バジェットを全部見たが日本車は無く、仕方なくクライスラー車を借りたらハンドルの右横にギアが付いている車種だった。その頃既にシリコンバレーもシアトルも日本車は多かったが、レンタカーで見つけるのは至難の業だった。今はアメリカではウーバーに乗るので借りることは皆無になったが、シアトルでウーバーXを呼ぶと殆どの場合プリウスが迎えに来る。車に限らず日本贔屓で、環境意識が高い土地柄だ。
ぎこちない運転でインターステート5号線に乗ると、20分ほどで地平線からダウンタウンのビル群と共にスペースニードルが頭を擡げた。1962年シアトル万博以来のシンボルタワーだ。ドラマのダーク・エンジェルでジェシカ・アルバ扮するミュータントがちょこんと座っている建物、といえばわかる方もいるかもしれない。街並みに見とれていては乗り換えを間違えると焦りながらハンドルを切り、520号に乗り換えワシントン湖にかかる橋を渡ってすぐにノースアップウェイの出口に到達した。「ここがマイクロソフトか……」。思ったよりオフィスの建物は小ぶりで、ラマダ・インというモーテルとバーガー・マスターのサインの方が大きく見えた。世界を席巻することになるIT企業の本社は、その頃はまだベルビューのダウンタウンからも離れた小さなビルにあった。
※PC版、最初のページ、シアトル湾の写真は、©Naonori Kohira
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