今回の南沙諸島での「航行の自由作戦」は、駆逐艦によって行われ、哨戒機も同行している可能性がある。中国はファイアリー・クロス礁、スービ礁、およびミスチーフ環礁で3000メートルの滑走路を建設しているとみられる。このうちファイアリー・クロス礁は満潮時でも一部が海面から出ており、12海里の領海と領空を主張することができるため、アメリカ海軍はファイアリー・クロス礁以外で「航行の自由作戦」を実施したようだ。アメリカの「航行の自由作戦」は1度では終わらず、断続的に行われていく可能性が高い。
他方、中国はアメリカが「航行の自由作戦」を計画していることにすでに反発しており、今後どのような対応を行うかが注目される。あくまで外交的に抗議を行うのか、それとも人民解放軍を動かしてこれに物理的に対処するのか。後者の場合、軍同士の衝突の可能性も否定できない。米中間には軍同士の衝突を避ける行動規範が存在するが、中国が軍同士の衝突を避けることよりも、米軍の排除を重視するなら、これらの行動規範は役に立たないだろう。このため、「航行の自由作戦」の立案に当たって、米軍も人民解放軍との衝突を想定しているはずだ。
南シナ海における中国の拠点作りは、西沙諸島と南沙諸島で進められているが、これでは南シナ海全体をカバーすることはできない。2012年に中国がフィリピンから奪ったスカボロー礁を埋め立てなければ、中国は南シナ海全体で航空優勢を確保することはできないのだ。今後、アメリカはすでに出来上がった人工島の存在を認めない一方、スカボロー礁の埋め立てを阻止することを目指すだろう。
問題の本質は、米中の航行の自由に関する考え方の違いにある。アメリカにとって航行の自由は建国の理念の1 つであり、アメリカは航行の自由を守るために2つの世界大戦を含めた戦争を戦ってきた。他方、中国はアメリカにとっての航行の自由の重要性を過小評価し、南シナ海問題に介入するための口実にすぎないと誤解している。
このように、米中が南シナ海で航行の自由をめぐって軍事衝突する可能性が高まっている。そのような事態が発生した場合、日本はどのように対処すべきだろうか。
まず、南シナ海が日本経済にとって重要な海の生命線であるため、航行の自由の確保は国家安全保障上の最優先課題の1つだ。アメリカが「航行の自由作戦」を実施した場合、中国はアメリカが軍事的な緊張を高めたと批判するだろうが、日本政府はアメリカの立場を全面的に支持すべきだ。
次に、来春、平和安全保障法制が施行されれば、新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に基づいた支援も求められる。米中が軍事衝突する場合、「重要影響事態」に認定される可能性が高いため、自衛隊がアメリカ軍の後方支援をすることも検討しなければならない。
最後に、日本も「航行の自由作戦」に参加することを検討するべきだ。アメリカ単独よりも、日米共同で行う方がより強いシグナルを中国に送ることができる。問題は、現行の中期防衛力整備計画(中期防)では、南シナ海で運用するのに十分な哨戒機を調達できないことだ。今後、海上自衛隊は80機あるP-3C哨戒機を70機のP-1に置き換えていくが、南シナ海での哨戒に参加するなら、次期中期防でp-1の調達数を増やすことを検討しなければならない。
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