2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年11月6日

 オバマの任期はあと16カ月で終わるが、習近平は、2017年の共産党大会で再任を果たし、新しい政治局常務委員に対し絶大な影響力をもつこととなろう。

 米中関係を、このように評価してみると、オバマは、米国の意思について、中国が誤解しやすい状況を生み出している、とチェンは警告しています。

出 典:Dean Cheng ?Summits Over Substance: Obama Yields To Chinese President Xi’ (Heritage, October 1, 2015)
http://www.heritage.org/research/commentary/2015/9/summits-over-substance-obama-yields-to-chinese-president-xi

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「弱腰外交」で自らの信頼に傷をつける米国

 先般の米中首脳会談において、オバマ大統領は習近平主席に対し弱腰であり、制裁を科す必要があるところで、無作為であったために、中国側に誤解を与えてしまったとD.チェンが述べています。この論評は基本的に的を射たものであると言えます。

 最近の米国内では、多くの中国研究者がオバマの対中政策について、より批判的になってきたように見られますが、本論評はその一つです。

 D.チェンが具体的事案として挙げているのは4件です。そのなかでも、首脳会談開始前に米国側が、特に強く指摘し制裁も辞さない構えを取ったサイバー攻撃への対応については、結局、事務当局のレベルで協議する、という拍子抜けの結論に落ち着いたように見えます。

 南シナ海での埋め立てについては、首脳会談以前には「埋め立てても、それは主権を有する島にはならない」と米事務当局は明確に述べていましたが、その話も首脳会談でどのような結論になったのか、判然としません。習近平は逆に「南シナ海は古代以来中国のものである」と中華思想そのものに基づいた説明を共同記者会見の場で行っています。

 共同記者会見の場で、習は米中関係を従来通り、「新しい形の大国関係」と呼称しましたが、この表現には、日米ともに特別の注意を要するものと思われます。この呼び方のなかには、第1に、太平洋の管理は基本的に米中双方が行う、という意味が含まれており、意図的に日米安保体制を軽視ないし、無視しようとの思惑が込められているように見られます。そして、第2に「新しい大国関係」のなかには、中国の一方的に主張する「核心的利益」(台湾、チベット、ウイグルなど)をそのまま米国が認めることが含意されているように見られることです。

 いずれにしても、中国に対する米国の対応が優柔不断であるということになれば、米国の対外コミットメント全体の信頼に傷がつく、というD.チェンの指摘はもっともです。ただし、オバマについて言うならば、TPP交渉妥結の際に「中国のような国には国際間のルールを書かせることは出来ない」とも述べており、中国の実態についての認識は進んできたとも捉えることができます。

 なお、中国人の米国亡命者の扱いについても米中間で突っ込んだ議論があったはずですが、今回、首脳会談に関係して公表されたものの中には入っていません。

  
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