2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年11月12日

イランと組み暗躍するシリア秘密警察

 さらに、アサド政権においてイランに反対する有力な人物が最近奇怪な状況で消え失せた。昨年12月、政治安全局のラスタム・ガザレ長官の屋敷が爆破され、その後程なく、2人のイラン人を含むシリアの秘密警察によって彼は殴り殺された。理由は彼がシーア派の民兵との協力を拒否したことにある。次は、長く大統領警護隊を率いたアサドの従兄のシャリシュである。7月、彼は突如降格させられた。理由は腐敗だと報じられたが、いまさら腐敗が理由というのは奇怪である。彼は不動産、麻薬、武器にまつわる腐敗を体現する人物として知られ、またシリア経由イラクへの武器密輸の親玉であった。

 この二つの事例はアサドに対するイランの圧力を示している。アサドは最早最も近しい側近すら守れない。これはアサドにとって危険である。ある欧州の外交官は「シャリシュがいなくなってから、イランはアサドに直接的、身体的アクセスを持つようになった」と言う。

 ロシア軍のお陰でアサドの立場は少々楽になった。限定的ではあるが、ロシアとイランを競わせることが出来る、と解説しています。

出 典:Christoph Reuter ‘Why Assad Has Turned to Moscow for Help’(Spiegel Online International,  October 6, 2015)
http://www.spiegel.de/international/world/syria-leader-assad-seeks-russian-protection-from-ally-iran-a-1056263.html

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交錯する3カ国の思惑

 上記記事で書かれていることは、初めて目にする観察です。ロシアの外交官は、なぜこういう話をしたのでしょうか。ロシアのシリアに対する軍事介入に関連して少しでも欧米の歓心を買おうという情報作戦でしょうか。その効果は、あまり期待できそうにはありませんが。

 しかし、この記事がいうように傍証はあるようです。イランの振舞いに打つ手がないアサド大統領がロシアを頼ったということはあり得ることです。

 アサドを救済し、地中海沿岸のロシアの海軍基地を維持したいプーチンと利害が一致したわけです。毒を制するに毒をもってするということらしいです。

 もはやアサド政権は、既にそれ自身の意思では動けない傀儡政権かも知れません。

 ただ、アサドがイランに手を焼いてロシアの助けを請うたとしても、ロシアとイランが共同歩調をとらないということではないでしょう。両国がスンニ派の反体制派を追い詰めることになれば、彼等は潰走するか、難民として逃げるか、ISILに走ることになるかも知れません。このままでは、西側がアサド政権かそれともISILかという不幸で不可能な選択を強いられる状況を招くこともあり得ないことではありません。

  
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