2024年11月23日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年10月15日

 フリーメーソンのピラミッド型の置物に秘められた暗号の解読がストーリーの要になっているうえ、何が暗号かということ自体も謎の一部になっており、その詳細には本稿では触れない。ドイツルネッサンスを代表する画家デューラーの作品に隠された暗号にもつながっていくなど、謎解きの過程も楽しく読ませるのは確かだ。ただ、全般にフリーメーソンに関する解説的な記述が多くなり過ぎているのは気になった。

気になる日系人

 さて、日本人の読者であれば必ず気になる登場人物が1人いる点を最後に紹介したい。CIAの幹部という設定で、ストーリーを展開させるなかで重要な役割を果たす人物だ。

 The overlord of the Office of Security -Director Inoue Sato - was a legend in the intelligence community. Born inside the fences of a Japanese internment camp in Manzanar, California, in the aftermath of Pearl Harbor, Sato was a toughened survivor who had never forgotten the horrors of war, or the perils of insufficient military intelligence. (p63~64)

 「(CIAの)警務局の権力者であるイノウエ・サトウ局長は諜報業界の伝説的な存在だ。真珠湾攻撃の後、カリフォルニア州マンザナールの日系人の強制収容所の塀の中で生まれた。サトウは戦争の恐怖、軍事諜報の不備の危険性を決して忘れない、手ごわい生き残りだった」

 姓が佐藤、名が井上というのは日本人としては納得がいかない。引用した部分からも分かるように、個性的な生い立ちを負わされたキャラクターであり、主要な登場人物の1人であるにもかかわらず、ストーリーが展開する中で、生い立ちの特異性が意味を持つシーンは全く出てこない。せっかくのアジア系の登場人物なのに、ハリウッドで映画化するときには、人気女優に演じさせるために真っ先に設定を変えられそうな存在であるのが残念だ。

 

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