2024年4月20日(土)

ルポ・少年院の子どもたち

2016年1月20日

実技講習を見守る北矢宗志さん

 植木と北矢は、ライフセービングは一部の限られた人たちだけの活動ではなく、泳げない人でも、身体的なハンディキャップがあっても、そこに人命救助の志さえあれば、残された機能を活用して誰もが参加できると言う。

 こうしたライフセービングの救命救急のトレーニングを基礎とした教育は、利他の精神を養い、全ての活動の目指す先が社会奉仕に行き着いている。

 それは人と社会を繋ぐひとつのモデルケースとして、少年たちの出院後の生き方の指針になるのではないか。また、事故で失われる生命やその悲しみを伝え、自分や他者の生命の重みに気づかせることによって、再犯の防止や非行の抑制に繋がると考えられる。そのために水府学院では5年ほど前からライフセービング講座が行われている。

君たちは愛する人を守れますか

 「これから実際の心肺蘇生法を学びます。君たちが大切だと思う人を思い浮かべて下さい。そして、絶対にその人を救うんだという気持ちを持って取り組んで下さい。講義を聴き、ビデオを観て感じるところもあったでしょう。北矢も植木も流通経済大のライフセービング部員も真剣に心肺蘇生法をお伝えしますので、君たちも真剣に学んでほしい」と植木は前半の座学を締めた。

事故現場の再現

 その後、実際の事故現場を想定したデモンストレーションを行うと、流通経済大学ライフセービング部員の真剣さに、院生たちは、みな驚きの表情を浮かべた。夏場の早朝から夕方まで、2カ月間にも及ぶ浜辺の安全に尽力した経験は、部員らに揺るぎのない自信を与えたのではないだろうか。デモンストレーションに入った瞬間に、それまで柔和だった顔が一変した。

 その後、各班に分かれて心肺蘇生法用の訓練人形を使って、院生はそれぞれ声の掛け方から人工呼吸、胸骨圧迫などを学んだ。最初は恐る恐るだったが、講師陣に励まされ、時間の経過とともに院生たちの態度も真剣そのものに変わっていった。

 実技講習後、植木は「今日ライフセービングからいろいろなことを学びましたが、人を救いたい、人の命を守りたいと言っても、まずは自分の命を守れなければなりません。それは自分を大切にするということです。それができてこそ、自分の身近にいる人を守れるようになれるのではないでしょうか。みなさんも愛する人を守れる人になって下さい」とメッセージを送った。

 北矢からは「もし何かの事故現場に遭遇した際、救急車が来るまでの間に、いま君たちが学んだ心肺蘇生法を使えば、倒れた人が社会復帰できる割合がぐんと増えます。とても大切な技術ですからしっかり覚えておいて下さい。

 君たちのその手は過去に失敗をしたり、人を傷つけた手かもしれないけれど、いま心肺蘇生法を学んで、人を救う手に変わっているんです。私はインストラクターをしていますが、君たちほど力強く胸骨圧迫、心臓マッサージをしている人たちを見ることはありません。それだけ真剣に蘇生させる技術を学ぼうとしていたのだと思います。君たちはここで多くのことを学び多くの反省をして社会に出て下さい」と伝えて講座を終えた。

 本講座は命の大切さを知り、互いを尊重し「共に生きよう」というメッセージが込められている。


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