国際派遣部隊が直近数カ月に出した犠牲者の数は、2001年来の記録を書き替えた。選挙における不正の程度たるや、国民が統治機構と法の支配確立のため、信頼に足る正統政府を切望している折も折、まさしく政府の正統性に疑問を招いた。
米国ではオバマ大統領が内政を考慮し、アフガン作戦の目標を薄めかねない状況だ。選挙期間中も最高司令官となってからも、勝利を目指すと再々約束し2万1000人の増派までしたのにである。これでは出口戦略など図れず、敵を元気づける。情勢の不安、統治の失敗と汚職、経済の窮迫など、敵対勢力を育む土壌を除くことは一層困難となる。
今やらないと負ける パキスタンへ波及も
タリバンは、民衆の支持をろくに得ていない。アフガンに侵攻したソ連を倒した1980年代のムジャヒディーン、ベトナム戦争で米軍を追い出した共産主義者のように、背後に大国もいない。にも拘らず、米国アフガン派遣司令官の手になる最新資料によれば、アフガン人を守り、かつアフガン治安部隊と統治機構を育てるには、直ちに国際社会とアフガニスタンの同盟勢力を巻き込んだ全面反抗戦略が必要になる。さもないと、アフガン紛争は勝ち目のないものになるというのである。
日本にも欧米にもアフガン介入を疑問視する向きがあろうから言っておくが、ソ連のアフガン侵攻やベトナム戦争の場合と違い、われわれがアフガニスタンで勝ち取ろうとしている目的と、アフガン人自身の願いとはぶれずに一致している。
世論調査は常に、タリバンないしその目的を支持する人はアフガン人の5~7パーセントしかいないことを示している。だからこそ、タリバンは脅しと暴力で市民を恐怖に陥れる。合法的収入源にありつけず、不法な麻薬で反抗を続ける。まともな国、銃でなく法が守る社会をアフガン人が作る助けになろうとする意欲を国際社会が失った時、その時にこそタリバンは勝機を得るのだ。
そしてアフガンにおける国家建設の成否は、パキスタンの命運と密接に結合している。中東とアジアが交わる要衝・パキスタン。核武装を進め、約1億8000万人のイスラム教徒を抱える。かつ隣国アフガニスタンからの影響に、パキスタン自身の失政があいまって、少なからぬ人口が過激化しつつある国である。
ここでもし、国際社会の支援が奏功しアフガニスタンが国民に治安と法、発展の枠組みを与えられる国となるならば、それはパキスタンを強くする。民主主義、経済を強め、国家自体の威信を支える。暴力的過激主義の居場所を奪うことができる。
反対に、アフガン国家が統治と治安維持に十分の力を得ぬうち国際派遣部隊が引いてしまうと、アフガニスタンは再タリバン化する。連れてパキスタンは恐らく致命的に不安定化しよう。アフガンにおいて過激化したイスラムはパキスタンを(地域割拠の)「バルカン化」しかねず、その際は核の安全に懸念が高まる。
インドの識者には、パキスタンの「レバノン化」を恐れる向きもある。パキスタンに伝染したタリバンが、レバノンの過激派ヒズボラよろしくテロ集団化し、主義において相容れない自国政府や周辺国を攻撃するに至る事態を指す。このいずれにせよ、暴力的過激主義に反対する多数のパキスタン人の未来は閉ざされる。パキスタンがもつ核を危ういものとし、アル・カイダなど世界規模の野望をもつテロ集団に、先進国攻撃の想を練る聖域をもたらすであろう。